シリーズ/わが昭和歌謡はドーナツ盤
偶然なる再会である(当然TV画面上のこと)。
往時、愛しき彼女は4つ年上の女(ひと)だった。芸能界でキャリアは積んでいたがまだ20代後半。顔つきもアイドルのような可愛さはなく、妖艶な大人の女を感じさせた。年上の女に弱かったボクの、若かりし日の憧れだった。バレリーナを目指しただけに、細身を包むタイトドレスがくっきりと肢体の曲線を露わにし、スリットから覗くスラリと伸びた脚線が、否応もなくボクの視線を釘付けにした。伴奏に入る否や、すっかり諳んじてしまった〈パッパッパヤッパー、パッパッパヤッパー、パッパッパヤッパー……〉と導入のスキャットと間奏。ただボーっと聴いていると聴き流してしまいそうだが、何と8回もパッパッパヤッパー! 同時に歌唱する金井克子の腕が右に左に延びてまるで交通巡査の手信号のようだったが、これがまた妙に色気を誘うフィンガーアクションになっていた。1973年(昭和48)リリースされ、金井克子の31枚目のシングルとして大ヒットした「他人の関係」(作詞:有馬三重子、作曲:川口真)である。
観るともなく観ていたBS日テレ、〝中高年のアイドル〟を自認する綾小路きみまろのレギュラー番組に目が留まった。画面は、きみまろがブレイクする前の下積み時代に司会などで話術を磨いた新宿歌舞伎町のキャバレー〈ロータリー〉の店内。ステージ前のダンスフロアで社交ダンスを踊る男女は明らかに居合わせた一般客とホステスだが、興に乗じてきみまろに握手を求める者がいたり酔客がステージの前を右往左往したり、カメラはドキュメンタリータッチだ。間もなく小さなステージに立ったのは、漫才の〈おぼんこぼん〉が笑いを提供し、ベテランのマジシャン、ブラック嶋田のマジックショーと続いた。いかにもキャバレー仕込みの達者なきみまろのMCぶりも会場を沸かせ、その日のメーンゲストが紹介された。金井克子だった。
50余年ぶりの再会である。この日は肢体にピタっとフィットしたビーズに輝く濃いピンクのドレス、体形もほとんど変わらないが往年の金井克子よりスリムな印象だ。パッパッパヤッパーと始まり〝手信号〟の振付とともに、中高年ばかりの満場の客席からやんやの喝采。撮影取材時に時計を戻しても、金井は後期高齢者のはず、にもかかわらず色気益々盛んではないか!
楽曲のテーマは疑いもなく〝不倫関係〟。様々なメディアで、金井自身はこの楽曲を歌うことが、「嫌でたまらなかった」と告白している。生々しいエロティックな歌詞を砕いてみると、「毎夜愛し合っても二人は他人の関係なのよ、今夜もほくろの数を一から数え直したりするけれど、明日になったら、また初めての顔で愛し合うの、お互い気ままで自由でいましょうね」ということになる。おそらく当時はよほどエロっぽい歌詞に聞こえて、20代の彼女には抵抗があったのだろう。バレエダンサーを夢見た少女が歌手になり、気づいたら大人の女のセクシーソングを歌って、後々まで歌謡芸能界での地歩を築いていたその足跡を今一度辿ってみたい。