24.08.01 update

80年代のアイドル全盛のなかで、トップ・アイドルに躍り出た菊池桃子の「もう逢えないかもしれない」は、シティ・ポップブームの再来で注目されている林哲司によるプロデュース

 今年の4月だっただろうか。久しぶりに歌番組で菊池桃子をみた。驚いたことに今年はデビュー40周年だそうだ。「卒業─GRADUATION─」と40周年記念の新曲「もうすぐ0時」を披露してくれたが囁くような癒しの声は、アイドルの頃のままだった。新曲は、ややアップテンポで男性ボーカルとのデュエットだったが、「卒業」をはにかむように歌う菊池をみていたら、80年代の歌番組の華やかなりし頃が蘇ってきた。

 山口百恵が80年10月に引退したが、入れ替わるように80年には松田聖子、河合奈保子、柏原芳恵、岩崎良美らがデビューした。82年デビューの中森明菜、松本伊代、小泉今日子、早見優、堀ちえみ、石川秀美、三田寛子、シブがき隊らは、のちに〝花の82年組〟と呼ばれた。菊池がデビューした84年は、吉川晃司、斉藤由貴、長山洋子、荻野目洋子、それに菊池と同日(4月21日)デビューの岡田有希子もいた。まさにアイドル全盛期の中で登場した菊池桃子だった。

 デビューのいきさつが面白い。母方の叔母が青山で飲食店を営んでいて、叔母の誕生日に一緒に撮った記念写真をレジの横に飾っておいたところ、それを見たある芸能事務所の担当者が、菊池兄妹をスカウトしたのだ。兄は、まったくその気がなく、妹の桃子は当時中学生で、厳しい帰宅時間を強制されクラブ活動もままならず、親に反抗する時期だった。特に芸能活動に興味があるわけではなかったが、「もう少し自由にさせて欲しい」という気持ちから活動を始めた。もともと目立ちたがり屋でもなく、大人しく、自信がなかった菊池は、オーディションに落ち続け、そろそろ辞めようかと思っていたとき映画『パンツの穴』のオーディションに合格、16歳でスクリーンデビュー、続いて「青春のいじわる」(作詞・秋元康、作曲・編曲林哲司)でアイドル歌手としてデビューしたのだった。

 歌番組でみる菊池は、どこか居心地が悪そうだった。歌う姿も一生懸命すぎて健気、だからだろうか応援したくなるアイドルだった。親しみやすいキャラクターも多くの人に愛された。デビュー曲の「青春のいじわる」は資生堂の〝ヤング化粧品〟のイメージソングに採用され、TBS系「ザ・ベストテン」では、今週のスポットライトに岡田有希子とともに初登場。2曲目の「SUMMER EYES」は、オリコンチャート7位にランクされた。そして3曲目の「雪にかいたLOVER LETTER」もヒットし84年の第26回日本レコード大賞新人賞、第17回日本レコードセールス大賞女性新人賞などを受賞している。ちなみに最優秀新人賞に輝いたのは、「恋 はじめまして」(作詞・作曲・編曲竹内まりや)を歌う岡田有希子だった。

 翌年もこの勢いは続き、17歳の時、日本武道館で行われたコンサートは当時最年少公演記録で、ビートルズの記録を抜く2万2千人を超す観客を動員、九段下の駅まで列が続いたという伝説がある。菊池は押しも押されもせぬトップ・アイドルへと駆け上がっていった。

 

 85年9月26日にリリースした6枚目のシングル「もう逢えないかもしれない」は江崎グリコのポッキーのCMにも使われ、ロケの現場は片田舎の駅。列車に乗って故郷を離れていく好きな人を自転車で懸命に追いかけていくそんな一途な菊池が可憐だった。秋ならではの哀愁が漂う印象的なものだった。ザ・ベストテンでも毎週順位があがり最高位3位にランキング。凝ったスタジオのセットがとても楽しみだった。「もう逢えないかもしれない」は、作詞・康珍化(かん ちんふぁ)、作曲・林哲司という黄金コンビによる楽曲だ。80年の浅野ゆう子「半分愛して」は康と林のコンビによる初めての作品で、以後上田正樹「悲しい色やね」(82)、杉山清貴&オメガトライブ「SUMMER SUSPITION」(83)、杏里「哀しみがとまらない」(83)、中森明菜「北ウイング」(84)、堀ちえみ「稲妻パラダイス」(84)、原田知世「天国にいちばん近い島」(84)、など80年代を代表するヒット曲がたくさんある。

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映画は死なず

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