「読んでから見るか、見てから読むか」というコピーがあるが、私の場合は「聴いてから見て読む」だった。その典型が原田知世のデビュー作となった『時をかける少女』である。筒井康隆のSF小説を大林宣彦監督、音楽は松任谷由実、松任谷正隆が担当した。主題歌の「時をかける少女」を原田知世が歌う。ファンタジックな曲を少女らしい透明感のある声で、伸びやかに歌っているのが印象的だった。映画の公開が83年7月で7月14日放送の「ザ・ベストテン」では、3位にランキングされた。ちなみに他の曲は、10位が「シャワーな気分」(田原俊彦)、9位「初恋」松下孝蔵、8位「天国のキッス」(松田聖子)、7位「悲しい色やね」(上田正樹)、6位「僕笑っちゃいます」(風見慎吾)、5位「め組のひと」(ラッツ&スター)、4位「エスカレーション」(河合奈保子)、2位「トワイライト」(中森明菜)、1位「探偵物語」(薬師丸ひろ子)である。
「原田知世いいよなぁ」という友人に連れられ映画館にいったが、中学高校生たちが客席を埋めていた。原田知世演じる芳山和子が理科の実験室でラベンダーの香りを嗅ぎ倒れてから、奇妙なタイムスリップ現象に襲われていく。西暦2660年からきたという同級生の深町一夫に淡い恋心を抱くのだが、一夫は元の場所に戻ってしまう。見終わってから書店によって文庫本を買った。今から思えば「見てから読む」のコピーを実践していたのだ。
今回久しぶりに、『時をかける少女』を配信で見た。グレーのブレザーの制服を着た原田知世、同級生の(堀川)吾朗ちゃんを尾美としのり、深町(一夫)くんを高柳良一、国語の福島先生を岸部一徳が演じているがみんな若い。その中でも現在は父親役などで存在感を発揮する尾美としのりが溌溂としていた。上原謙、入江たか子が深町くんの祖父母としてほんの少し画面に映ったがさすがに風格がある。そして主要場面をバックに「時をかける少女」を歌う原田が最後に映し出されるのだが、今の時代にこんな高校生いるだろうかと思えるくらい純粋で可憐だ。
その後『時をかける少女』は、97年には中本奈奈主演、角川春樹監督で公開され、2010年には仲里依紗主演で角川映画、06年には細田守監督がアニメ映画として公開。テレビドラマや舞台でもリメイクされ世代を超えて『時をかける少女』は愛されている。原作者の筒井康隆にとっては、親孝行な作品だ。
薬師丸ひろ子は85年、原田知世と渡辺典子は86年に角川春樹事務所から独立したが、現在も変わらず第一線で女優としても歌手としても活躍している。角川春樹は彼女たちに続く女優を見出そうとはしなかった。オーディションのとき、薬師丸ひろ子は、岩崎宏美の「思秋期」を歌い、原田知世は大橋純子の「サファリ・ナイト」を歌ったという。角川はきっと二人の歌声を聴いたとき、「いい女優になる」と閃いたのではないだろうか。私にとっても角川映画が勢いのあった10年は、思い出深い濃い年月だった。
文=黒澤百々子 イラスト=山﨑杉夫