ところで、GAROのメンバーの3人のうち堀内護、日高富明はすでに亡く、ボクと同い年の大野真澄はもちろん健在で立派にソロ活動しているが、実は「学生街の喫茶店」が大ヒットしていた時代の3人の顔やそれぞれの個性をまじまじと知ったのは、1973年暮の第24回NHK紅白歌合戦だった。フォークソング・グループが紅白に出場すること自体、初めてだったのか、とにかく珍しいこととして話題になった。70年代の学生文化の象徴としての楽曲を、さすがお堅いNHKも認めざるを得なかったのか、あるいは学生運動の炎も下火になり、時は流れた~という詞の印象から、NHKも安心して出場を促したのか。前年の6月リリースとはいえ、当初はA面「美しすぎて」のシングルB面の楽曲だった「学生街の喫茶店」は数カ月後にはA面B面を逆転させるほどになる。有線放送のリクエストを受けはじめてから、翌年の2月、オリコンのシングルチャートで1位となり7週連続1位の大ヒットしたのだ。年末の第15回日本レコード大賞大衆賞、第6回日本有線大賞新人賞を受賞という輝かしい実績をひっさげて紅白出場を果たした。紅組白組の派手な衣装のなかで長髪3人組のGAROはいつもの裾の広がったジーパン姿だったように記憶している。ただ、見事なアコースティックギターの捌きとリードヴォーカル・大野の張りのある声とともに、3人の個性的な声質がきれいなハーモニーとなって、場内がシーンとして聴き入ったことは覚えている。この年の紅白初出場は、森昌子「せんせい」、八代亜紀「なみだ恋」、麻丘めぐみ「私の彼は左きき」、三善英史「円山・花街・母の街」、ぴんから兄弟「女のみち」、アグネス・チャン「ひなげしの花」、郷ひろみ「男の子女の子」、やはり初出場でGAROと対抗した紅組はチェリッシュが「てんとう虫のサンバ」だ。フォークソング系歌謡曲の出場が、いかに珍しかったかがうかがえるし、もしくはテレビ出演を拒否する姿勢がフォークグループの潔さと思わせていた時代だったのか。
「学生街の喫茶店」の詞は、男の若き日の恋愛の回想である。
好意をもっていた女友達とのふれあい、喫茶店「レモン」の壁の名画に囲まれて、訳もなくお茶を飲みながら語り合った思い出。学生運動華やかなりし喧騒の中で、喧々諤々と議論を交わすには不釣り合いなあまりにも静かな佇まいだった。時々、ボブ・ディランの「風に吹かれて」が流れて耳を傾けることもあったよね。その「レモン」で、今こうしてひとり片隅に座って窓の外の枯葉舞う街路樹を眺めながら、実はあの頃、愛だなんて知らずに君と語り合ったのに、サヨナラも言わずに別れてしまったな…。ふっと、ドアを開けて君が入って来るような気がしてくるが、そうか錯覚か、もう…時は流れた、のだ。
振り返れば、長い人生、男といわず女といわず数々の出会いがあり、それが愛だとは知らず、サヨナラも言わず別れた人々がいかに多いことか。時は流れた、君と、君と…。
文=村澤次郎 イラスト=山﨑杉夫