アナログレコードの1分間45回転で、中央の円孔が大きいシングルレコード盤をドーナツ盤と呼んでいた。
昭和の歌謡界では、およそ3か月に1枚の頻度で、人気歌手たちは新曲をリリースしていて、新譜の発売日には、学校帰りなどに必ず近所のレコード店に立ち寄っていた。
お目当ての歌手の名前が記されたインデックスから、一枚ずつレコードをめくっていくのが好きだった。ジャケットを見るのも楽しかった。
1980年代に入り、コンパクトディスク(CD)の開発・普及により、アナログレコードは衰退するが、それでもオリジナル曲への愛着もあり、アナログレコードの愛好者は存在し続けた。
近年、レコード復活の兆しがあり、2021年にはアナログレコード専門店が新規に出店されるなど、レコード人気が再燃している気配がある。
ふと口ずさむ歌は、レコードで聴いていた昔のメロディだ。
ジャケット写真を思い出しながら、「コモレバ・コンピレーション・アルバム」の趣で、懐かしい曲の数々を毎週木曜に1曲ずつご紹介する。
2021年4月17日・18日に東京国際フォーラムで、前年亡くなった作曲家・編曲家の筒美京平を偲んで「~筒美京平 オフィシャル・トリビュート・プロジェクト~ザ・ヒット・ソング・メーカー筒美京平の世界 in コンサート」が開催され、多くの人々が筒美京平の世界に酔いしれると共に、あの曲も、この曲も筒美京平だったのか、とその偉業に感嘆した。ジュディ・オング、野口五郎、郷ひろみ、太田裕美、岩崎宏美ら、筒美京平作品にゆかりの多くの歌手が出演するなか、平山三紀が「真夏の出来事」、麻丘めぐみが「わたしの彼は左きき」、そして、久しぶりにナマ歌で浅田美代子が「赤い風船」を歌うなど、レコードで聴いたオリジナル歌手による歌はいいものだと感激しつつ、もしかしたら、中原理恵も登場するのかと期待したが、残念ながら「東京ららばい」は別の歌手によって披露された。だが、やはり「東京ららばい」は、筒美京平の代表作の一つとして認識されているのだと納得した。
「東京ららばい」は、1978年3月21日に、CBS・ソニーよりリリースされた。中原理恵は、この曲で日本レコード大賞新人賞を受賞し、NHK紅白歌合戦にも初出場した。「東京ららばい」を思い出すとき、同時に渡辺真知子の「迷い道」や、庄野真代の「飛んでイスタンブール」が浮かんでくる。この年のレコード大賞の各賞を受賞した曲を調べてみると、やはり、渡辺真知子は「かもめが翔んだ日」で、最優秀新人賞を受賞し、「飛んでイスタンブール」と「東京ららばい」で筒美京平は作曲賞を受賞している。レコード大賞はピンク・レディー「UFO」、最優秀歌唱賞は沢田研二「LOVE(抱きしめたい)」だった。
そのほかにも、研ナオコ「かもめはかもめ」、桜田淳子「しあわせ芝居」、岩崎宏美「シンデレラ・ハネムーン」、大橋純子「たそがれマイ・ラブ」、西城秀樹「ブルースカイ ブルー」、山口百恵「プレイバックPart2」、サーカス「Mr.サマータイム」、石野真子「失恋記念日」、受賞は辞退しているが世良公則&ツイスト「銃爪(ひきがね)」など、いずれも耳になじみの曲ばかりである。40年以上経った現在でもイントロから口ずさめるのだから、当時の歌謡曲の威力はすごい。
さらに、その年の紅白歌合戦に中原理恵と共に初出場を果たした歌手は、渡辺、庄野、サーカスのほか、榊原郁恵、「青葉城恋唄」のさとう宗幸、「キャンディ」「タイム・トラベル」の原田真二、そしてツイストも紅白歌合戦には出場している。まだ、歌謡曲が幸せな時代だったのかなと思ったりもする。
「東京ららばい」は、作詞・松本隆、作曲・筒美京平のゴールデン・コンビによるもので、今でも、カラオケなどでは人気の曲である。続く「ディスコ・レディー」も同じコンビでヒットした。77年から79年あたりは、日本の第2次ディスコ・ブームと呼ばれていて、ジョン・トラボルタ主演の映画『サタデー・ナイト・フィーバー』が大ヒットしたのも78年である。今やクラブと呼ばれているが、ディスコ、ディスコテークという言葉が現役で、私もそうだったが、若者たちが一晩中〝フィーバー〟していた時代のヒット曲である。この曲を聴くと、エネルギーが有り余っていた頃、始発帰りする若者であふれていた六本木のなんとも気怠い朝の風景がよみがえってくる。それにしても、中原理恵は引退してしまったのだろうか。
文=渋村 徹