アナログレコードの1分間45回転で、中央の円孔が大きいシングルレコード盤をドーナツ盤と呼んでいた。
昭和の歌謡界では、およそ3か月に1枚の頻度で、人気歌手たちは新曲をリリースしていて、新譜の発売日には、学校帰りなどに必ず近所のレコード店に立ち寄っていた。
お目当ての歌手の名前が記されたインデックスから、一枚ずつレコードをめくっていくのが好きだった。ジャケットを見るのも楽しかった。
1980年代に入り、コンパクトディスク(CD)の開発・普及により、アナログレコードは衰退するが、それでもオリジナル曲への愛着もあり、アナログレコードの愛好者は存在し続けた。
近年、レコード復活の兆しがあり、2021年にはアナログレコード専門店が新規に出店されるなど、レコード人気が再燃している気配がある。
ふと口ずさむ歌は、レコードで聴いていた昔のメロディだ。
ジャケット写真を思い出しながら、「コモレバ・コンピレーション・アルバム」の趣で、懐かしい曲の数々を毎週木曜に1曲ずつご紹介する。
久保田早紀の「異邦人」を初めて耳にしたのは、「大学受験ラジオ講座」からだった。ブラームスの「大学祝典序曲」で始まる「大学受験ラジオ講座」は旺文社がスポンサーで、通称「ラ講」と呼ばれ、地方の高校生にとっては、合格のバイブルと言われていた。私の生まれ育った田舎には、家から通える進学塾や予備校などなかった。そのうえ、「教科書を丸暗記すればいいんだ」という無茶な持論の父からは、国立大学に入ることを課され、私を悩ませた。
そんな中、高校2年生の夏休みに書店で見つけたのが「ラ講」のテキストだった。朝5時から一科目30分、2講座を聴講する。眠気まなこで聴いた講座には、J.B.ハリス先生の英語や、秋山仁先生の数学、竹内均先生の物理などがあった。不安に押しつぶされそうな毎日、「焦らなくても大丈夫、やり切った後には道は拓かれる」といった講師の優しい励ましの言葉と、2講座の間に流れてくる歌謡曲に救われた。
「異邦人」は、独特のイントロから、砂漠が広がる世界に一瞬で身を置かれ、心が震えた。透き通った伸びのある歌声に耳を欹(そばだ)てると、少し切なくなるような情景が頭の中をぐるぐると回ってきた。講座の眠気も吹き飛び、その世界観にすっかり魅せられた。