「異邦人─シルクロードのテーマ─」は、1979年10月1日にリリースされた。
ユーミンや矢野顕子にあこがれていた久保田は、自作の曲を書き留めていた。当時はサザンオールスターズや渡辺真知子、世良公則&ツイストなどといったシンガーソングライターが活躍していた時代だった。曲を作りながら彼らを横目で見ては悶々としていたという。一大決心をして、自作自演も可とあった「ミス・セブンティーンコンテスト」のオーディションに録音したカセットテープを送った。ところがこのオーディションは、タレントやアイドルを発掘するもので、アマチュアシンガーソングライターの同時募集ではなかった。それでも才能はどこかで誰かが見つけてくれるものなのだろう。久保田の作品に興味を持ったCBSソニーから連絡が入り、歌手デビューを目指すことになった。
CBSソニーに通う中央線の夕暮れの車窓から、無心で遊んでいる子供たちの姿が切り絵のように記憶に張りつき、思いつくままに書いた詩に曲を付けた「白い朝」が出来上がる。当時三洋電機の大型カラーテレビのCMを手がけることになっていた音楽プロデューサーの酒井政利が「白い朝」に興味を持った。1979年上期のヒット曲であるジュディ・オングの「魅せられて」はエーゲ海がテーマだった。酒井は、次はシルクロードが来ると閃いた。
「白い朝」は、シルクロード路線を狙った酒井の発案で「異邦人」と改題され、大胆なアレンジが加えられた。編曲は「シクラメンのかほり」や「木綿のハンカチーフ」など数々のヒット曲の編曲を手がけた萩田光雄だった。民族楽器ダルシマーが印象的なオリエンタルムードたっぷりのイントロは、音の魔術師と言われる萩田の手によるものだ。
リリース後、サビの部分がキャンペーン・ワーズとなったテレビCMが放映開始となる。久保田自身も音楽番組に積極的に出演する。セミロングのカーリーヘアーで、フランス人形のような久保田をテレビで初めてみたときは、「まー、綺麗なひと」と驚いた。「夜のヒットスタジオ」では、白いピアノに白いハトの演出がされるなど、生の弾き語りでもその歌唱力を存分にみせつけてくれた。歌っているときの遠くを見つめるような表情と、歌い終わったときのはにかむような笑顔がとても可愛かったことを憶えている。