22.11.17 update

70年代の人気ドラマ「俺たちの旅」で流れた片想いソング 岡田奈々「青春の坂道」

アナログレコードの1分間45回転で、中央の円孔が大きいシングルレコード盤をドーナツ盤と呼んでいた。
昭和の歌謡界では、およそ3か月に1枚の頻度で、人気歌手たちは新曲をリリースしていて、新譜の発売日には、学校帰りなどに必ず近所のレコード店に立ち寄っていた。
お目当ての歌手の名前が記されたインデックスから、一枚ずつレコードをめくっていくのが好きだった。ジャケットを見るのも楽しかった。
1980年代に入り、コンパクトディスク(CD)の開発・普及により、アナログレコードは衰退するが、それでもオリジナル曲への愛着もあり、アナログレコードの愛好者は存在し続けた。
近年、レコード復活の兆しがあり、2021年にはアナログレコード専門店が新規に出店されるなど、レコード人気が再燃している気配がある。
ふと口ずさむ歌は、レコードで聴いていた昔のメロディだ。
ジャケット写真を思い出しながら、「コモレバ・コンピレーション・アルバム」の趣で、懐かしい曲の数々を毎週木曜に1曲ずつご紹介する。

 1975年から76年にかけて毎週日曜夜8時に放送されていた日本テレビ系ドラマ「俺たちの旅」は、その時代に20代を過ごした人たち、特に20代後半にさしかかった人たちにとっては、過ぎ去った青春の光と影を映し出すドラマとして、甘酸っぱく記憶に刻まれているに違いない。後にテレビ史に刻まれるような良質なドラマが作られていた頃、〝ドラマのTBS〟と言われるほど、TBSからは「私は貝になりたい」「七人の刑事」「七人の孫」「時間ですよ」「ありがとう」「岸辺のアルバム」「ふぞろいの林檎たち」など数々の人気ドラマが誕生した。TBSのドラマが王道だとしたら、夏木陽介主演「青春とはなんだ」、ショーケン(萩原健一)、水谷豊共演の「傷だらけの天使」、浅丘ルリ子、原田芳雄、大原麗子、緒形拳、森光子、山田五十鈴、山村聰、森繫久彌ら、オールスターキャストのホームドラマ「さよなら・今日は」、松田優作主演「探偵物語」などの日本テレビ系ドラマは、僕には、どこかサブカルチャーのような匂いがしていた。

「俺たちの旅」もその一つだった。三流大学と言われる大学でバスケットボールだけに情熱を傾け、就職活動には目もくれないカースケ(中村雅俊)、その同級生で「俺はダメな男だ」といつも落ち込んでいる優柔不断なオメダ(田中健)、カースケの同郷の先輩グズ六(津坂まさあき、現・秋野大作)の3人を中心に、青春の日々を謳歌しながらも、自分自身に正直がゆえに、現実社会の中でもがき、苦しみながら成長していく若者たちの青春群像劇だった。

「男はみんな淋しいのです」「男はどこか馬鹿なのです」「女もなぜか淋しいのです」「男の胸には哀しみがあるのです」といった毎回のサブタイトルも、どこか生きることの喜び、苦しみ、悩み、意味みたいなものを問いかけられているような気がしていた。ドラマにはオメダの妹・真弓役で岡田奈々も出演していた。しっかり者の高校生だが、父親不在の妾の娘ということで、時折見せる淋しげな表情は岡田奈々にぴったりだった。

イラスト:山﨑杉夫

 76年3月7日放送の回のサブタイトルは「少女はせつなく恋を知るのです」で、カースケに片想いする真弓の思いにアプローチした物語だった。その回に劇中で流れたのが「青春の坂道」である。そして、放送の3日後の3月10日に岡田奈々の4枚目のシングルとして「青春の坂道」はNAVレコード(現・ポニーキャニオン)から発売された。

 作詞は松本隆(月刊「明星」の一般公募で入選した歌詞を原案に作詞)、作曲は「青春時代」の森田公一。松本隆は、岡田奈々のデビュー曲から、7枚目のシングルまで連続で作詞を担当していて、岡田奈々の歌の世界は、その容姿や佇まいも含めて、どこか〝女学生〟という表現が似合う言葉で綴られていたような気がしていた。CDというより、昭和のレコードが醸し出す雰囲気だった。そういえば、2枚目のシングルはその名もズバリ「女学生」。ちなみに、76年の第一回ホリプロスカウトキャラバンでは、榊原郁恵が「青春の坂道」を歌いグランプリに輝いた。

 女学生が似合う岡田奈々は、まさに正統派の清純アイドルで、「俺たちの旅」に続く「俺たちの朝」の主人公オッス(勝野洋)の妹役や、日本テレビ系の青春ドラマの系譜で、中村雅俊が主演を務め、主題歌「時代遅れの恋人たち」もヒットした「ゆうひが丘の総理大臣」での中村の下宿先の大家(樹木希林)の娘役などをはじめ女優としても数多くの作品に出演している。特に80年代の大映ドラマには欠かせない女優で、多くの作品で記憶に残る。大映ドラマと言えば、岡田奈々と言ってもいいくらいに印象深い。「不良少女とよばれて」、〝泣き虫先生〟こと山下真司の妻役の「スクール✩ウォーズ」、「乳姉妹」「ポニーテールはふり向かない」「花嫁衣裳は誰が着る」「おんな風林火山」などなど、懐かしい青春時代の記憶である。また、角川映画『里見八犬伝』の浜路役もよかった。

 どこかハスキーな声で歌う「青春の坂道」を聴くと、髪を風になびかせながら自転車に乗るセーラー服の岡田奈々を勝手に思い描き、僕のイメージはノスタルジーな昭和の日々へと、拡がってしまうのである。「青春の坂道」は、僕を昭和へと呼び戻す1曲でもあった。

文=渋村 徹

映画は死なず

新着記事

  • 2024.05.20
    やっぱり懐かしい!映画『男はつらいよ』の世界にひた...

    京成電車下町さんぽ<2>

  • 2024.05.17
    町田市立国際版画美術館「幻想のフラヌール―版画家た...

    応募〆切:6月10日(月)

  • 2024.05.14
    阿木燿子作詞、宇崎竜童作曲の名曲を得て、自身初とな...

    ミュージシャンという肩書が似合うようになった

  • 2024.05.14
    全米の映画賞を席巻した話題作『ホールドオーバーズ ...

    応募〆切:6月5日(水)

  • 2024.05.14
    『あぶない刑事』の舘ひろし&柴田恭兵、70歳超コン...

    5月24日(金)公開

  • 2024.05.10
    背中トントン懐かしい ─萩原 朔美   

    第14回 キジュからの現場報告

  • 2024.05.10
    練馬区立美術館「三島喜美代─未来への記憶」展 観賞...

    応募〆切:5月31日(金)

  • 2024.05.10
    <特集>帰ってきた日本文化の粋 ─ 今、時代劇が熱...

    文=米谷紳之介

  • 2024.05.09
    吉田修一原作×大森立嗣監督が『湖の女たち』で再びタ...

    5月17日(金)全国公開

  • 2024.05.09
    東宝映画『ゴジラ』のヒロインに抜擢され、その後俳優...

    東宝から俳優座へ。

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

information »

ロマンスカーミュージアムが3周年記念イベントを開催!

イベント ロマンスカーミュージアムが3周年記念イベ...

4月10日(水)~5月27日(日)

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!