22.12.22 update

宇崎竜童、阿木燿子コンビの「横須賀ストーリー」から始まった〝百恵伝説〟

「百恵ちゃん」が「百恵さん」に変わった。

 山口百恵の13枚目のシングル「横須賀ストーリー」を初めて聴いたとき感じたことだった。それは当時小学校の高学年だった私にもはっきりとわかる違いだった。

 歌い出しの歌詞も印象的だったが、急な坂道をかけ上ると、目の前に海が開けるという風景に、周りは山しか見えない田舎で育った私には見果てぬ世界で、「横須賀」という街に憧れを抱いたのだった。

 今年は、知り合いの朗読劇の鑑賞や、稲垣潤一のコンサート、韓国の若手ピアニストのリサイタルと、何度か横須賀に行く機会があった。先日、京浜急行電鉄「横須賀中央駅」に降りたとき耳にしたのが、接近メロディとして使われている「横須賀ストーリー」だった。

 1976年6月21日、CBSソニーからリリースされた「横須賀ストーリー」は、作詞・阿木燿子、作曲・宇崎竜童のコンビによる。宇崎竜童はデビュー当時、リーゼントにサングラス、服は「つなぎ」という暴走族的なイメージ。率いる「ダウン・タウン・ブギウギ・バンド」のメンバーも不良っぽさが残るグループだった。「ダウン・タウン・ブギウギ・バンド」はデビュー1年後の75年、「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」が大ヒットした。語りと決めゼリフの「アンタ、あの娘の何なのさ!」は、クラスの男子がよく真似をして笑わせてくれた。

 山口百恵にとって、小学校2年の終わりから中学2年の終わりまでを過ごした「横須賀」は、特別な思い入れがあった。街の名前を聞いただけで胸がしめつけられるような懐かしさを覚える土地だったという。ラジオ番組の共演や、宇崎の歌う「涙のシークレット・ラヴ」を気に入った山口百恵が「宇崎さんの曲を歌ってみたい─」と、マネージャーらに直訴した。しかし、すんなりとは受け入れられたわけではなかったようだ。その後正式な依頼で宇崎と阿木のコンビは「横須賀ストーリー」「碧色の瞳」など4曲をアルバム用に提供した。ところが「横須賀ストーリー」は、アルバム『17才のテーマ』には入らなかった。プロデューサーの酒井政利は、「これは、シングルにさせていただきます」と言って、6カ月も寝かせ、時期を狙ってシングル盤でリリースさせた。ふたを開ければ累計売上は81万枚を記録、それまでの最大のヒットシングルとなった。

 作詞の阿木は、両親が横須賀在住だったという共通項もあり、タイトルを決めて曲作りに入った。「横須賀ストーリー」は、それまでのアイドル路線を脱皮し、大人の階段をのぼり始めた山口百恵第二章の始まりの曲といえるのだろう。80年10月の引退会見では、自身の曲の中で「横須賀ストーリー」が一番好きだと答えている。

 その後、阿木と宇崎が手がけた曲は、「夢先案内人」「イミテーション・ゴールド」(77)、「乙女座 宮」「プレイバックPart2」(78)、「絶体絶命」「美・サイレント」(79年)、「しなやかに歌って」「愛の嵐」(79)、「謝肉祭」「ロックンロール・ウィドウ」「さよならの向う側」(80)など矢継ぎ早に発表される新曲はことごとく新たな広がりをみせ大ヒットした。曲ごとに変わる髪形や衣装、ますます美しくなっていくのが、テレビ画面から伝わってきた。

 本棚の奥から、山口百恵の自叙伝『蒼い時』を取り出し読み返してみた。執筆に際し山口百恵は、自分のネーム入りの原稿用紙を100冊作り、気に入った紺色の万年筆で1マス1マス埋めた。本人は、自叙伝というのは恥ずかしいので、「風従の記」としているが、一人の女性が、自らの手で飾りのない心の内を記している。序章には「私の原点は、あの街─横須賀」。そして「最後に、これまで私を支えてくださった多くの方々に、心から─ありがとうございました。倖せになります。 山口百恵」と結んでいる。

 芸能人としての活動期間は8年弱。引退した時は21歳だった。マイクを置き、カメラの前から姿を消して40年以上が経つが、私たちは山口百恵という名前を忘れることはない。

 いろいろある山口百恵の楽曲の中でも、「横須賀ストーリー」は私にとっても一番のお気に入りなのである。

文=黒澤百々子

アナログレコードの1分間45回転で、中央の円孔が大きいシングルレコード盤をドーナツ盤と呼んでいた。
昭和の歌謡界では、およそ3か月に1枚の頻度で、人気歌手たちは新曲をリリースしていて、新譜の発売日には、学校帰りなどに必ず近所のレコード店に立ち寄っていた。お目当ての歌手の名前が記されたインデックスから、一枚ずつレコードをめくっていくのが好きだった。ジャケットを見るのも楽しかった。1980年代に入り、コンパクトディスク(CD)の開発・普及により、アナログレコードは衰退するが、それでもオリジナル曲への愛着もあり、アナログレコードの愛好者は存在し続けた。
近年、レコード復活の兆しがあり、2021年にはアナログレコード専門店が新規に出店されるなど、レコード人気が再燃している気配がある。
ふと口ずさむ歌は、レコードで聴いていた昔のメロディだ。ジャケット写真を思い出しながら、「コモレバ・コンピレーション・アルバム」の趣で、懐かしい曲の数々を毎週木曜に1曲ずつご紹介している。

映画は死なず

新着記事

  • 2024.05.22
    今こそ〈肉体の理性〉よ! ─萩原 朔美   

    第15回 キジュからの現場報告

  • 2024.05.20
    やっぱり懐かしい!映画『男はつらいよ』の世界にひた...

    京成電車下町さんぽ<2>

  • 2024.05.17
    町田市立国際版画美術館「幻想のフラヌール―版画家た...

    応募〆切:6月10日(月)

  • 2024.05.14
    阿木燿子作詞、宇崎竜童作曲の名曲を得て、自身初とな...

    ミュージシャンという肩書が似合うようになった

  • 2024.05.14
    全米の映画賞を席巻した話題作『ホールドオーバーズ ...

    応募〆切:6月5日(水)

  • 2024.05.14
    『あぶない刑事』の舘ひろし&柴田恭兵、70歳超コン...

    5月24日(金)公開

  • 2024.05.10
    背中トントン懐かしい ─萩原 朔美   

    第14回 キジュからの現場報告

  • 2024.05.10
    練馬区立美術館「三島喜美代─未来への記憶」展 観賞...

    応募〆切:5月31日(金)

  • 2024.05.10
    <特集>帰ってきた日本文化の粋 ─ 今、時代劇が熱...

    文=米谷紳之介

  • 2024.05.09
    吉田修一原作×大森立嗣監督が『湖の女たち』で再びタ...

    5月17日(金)全国公開

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

information »

ロマンスカーミュージアムが3周年記念イベントを開催!

イベント ロマンスカーミュージアムが3周年記念イベ...

4月10日(水)~5月27日(日)

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!