22.12.29 update

ユーミン作詞・作曲の大ヒット曲のオリジナル版 三木聖子「まちぶせ」

 1975年にデビューした、三木聖子をご存じだろうか。デビューはTBS系の連続テレビドラマ「悪魔のようなあいつ」だった。「悪魔のようなあいつ」は、阿久悠が原作を手がけ、上村一夫が作画をした連載漫画のテレビドラマ化で、昭和の未解決事件として知られる三億円強奪事件をモチーフとした作品で、時効まであと半年というタイミングで製作された。主人公のジゴロで脳腫瘍を患っている三億円強奪犯人をジュリーこと沢田研二が演じ、ドラマ「時間ですよ」や「寺内貫太郎一家」などのヒットドラマを手がけた久世光彦が演出を担当し、エロチシズム漂う、どこか頽廃的なムードなど、大人向けの濃厚な構成で通好みのファンを喜ばせ、今でも語り継がれる昭和のドラマとしてテレビ史に刻まれている。

 脚本は映画『青春の殺人者』『太陽を盗んだ男』の監督として知られる長谷川和彦、音楽は井上堯之と大野克夫で、2人は「傷だらけの天使」や「寺内貫太郎一家」なども連名で音楽を手がけている。共演者には若山富三郎、藤竜也、荒木一郎、篠ひろ子、安田道代(現・大楠道代)、宝塚の男役トップスターとして人気を誇った那智わたる、伊東四朗、細川俊之、尾崎紀世彦など一癖も二癖もある強烈な個性の俳優陣が揃った。久世演出作品らしく、加藤治子や、悠木千帆(後の樹木希林)も出演しており、多くの才能が結集した、さまざまな角度から語られるテレビドラマだった。ちなみにジュリーの大ヒット曲「時の過ぎゆくままに」(作曲は大野克夫)もこのドラマから誕生した。三木聖子はジュリーの清純な妹役で、デビュー作にしてベッドシーンや暴行シーンなどがあるハードな役柄に耐えていたが、やはり痛々しかった。

 翌年、三木聖子は歌手としてもキャニオン・レコードからデビューを果たすことになり、その楽曲が「まちぶせ」だった。81年には石川ひとみによるカバーシングルがリリースされ大ヒットし、石川はこの曲でNHK紅白歌合戦に初出場することになるが、荒井由実作詞・作曲、松任谷正隆編曲による「まちぶせ」は、そもそもは、三木聖子への提供曲だった。96年には、松任谷由実自身のセルフカバーによるシングルがリリースされている。いずれも松任谷正隆の編曲だが、ユーミンのセルフカバーは、どこかレゲエ風のアレンジになっていた。三木聖子のデビューシングルのカップリング曲は、やはり荒井由実作詞・作曲の「少しだけ片想い」。こちらは荒井由実のアルバム『COBALT HOUR』に収録されているのがオリジナルで、三木聖子が歌ったのはカバー曲である。

 とにかく、ポニーテールの三木聖子が可愛かった。もともと、ドラマで好きになったのだが、歌を聴いて、ますます好きになった。77年にリリースした3枚目のシングル、松本隆作詞、大野克夫作曲の「三枚の写真」も記憶に残る。三木聖子の「まちぶせ」は残念ながら、大きなヒットには結びつかなかったが、僕にとっては「まちぶせ」と言えば、誰が何と言おうと三木聖子なのである。約2年間という短い芸能活動だったが、僕の中には、いまでも「まちぶせ」を歌う、ポニーテールの三木聖子の姿が、鮮やかに記憶に刻み込まれている。そういえば、「まちぶせ」の次にリリースされた石川ひとみのシングルもまた、三木聖子のカバー曲「三枚の写真」だった。この曲も、石川ひとみの曲としての認知度のほうが高い。石川ひとみもキャニオン・レコードの先輩である三木聖子が好きだったのかもしれない。

文=渋村 徹 イラスト:山﨑杉夫

アナログレコードの1分間45回転で、中央の円孔が大きいシングルレコード盤をドーナツ盤と呼んでいた。
昭和の歌謡界では、およそ3か月に1枚の頻度で、人気歌手たちは新曲をリリースしていて、新譜の発売日には、学校帰りなどに必ず近所のレコード店に立ち寄っていた。お目当ての歌手の名前が記されたインデックスから、一枚ずつレコードをめくっていくのが好きだった。ジャケットを見るのも楽しかった。1980年代に入り、コンパクトディスク(CD)の開発・普及により、アナログレコードは衰退するが、それでもオリジナル曲への愛着もあり、アナログレコードの愛好者は存在し続けた。
近年、レコード復活の兆しがあり、2021年にはアナログレコード専門店が新規に出店されるなど、レコード人気が再燃している気配がある。
ふと口ずさむ歌は、レコードで聴いていた昔のメロディだ。ジャケット写真を思い出しながら、「コモレバ・コンピレーション・アルバム」の趣で、懐かしい曲の数々を毎週木曜に1曲ずつご紹介している。

映画は死なず

新着記事

  • 2024.06.14
    創建1200年記念 特別展「神護寺─空海と真言密教...

    応募〆切:7月15日(月)

  • 2024.06.14
    実話をもとに描かれた、海の男たちの誇りと絆の戦争秘...

    応募〆切:6月25日(火)

  • 2024.06.14
    自然写真家・今森光彦のライフワークの集大成、「今森...

    6月20日(木)~9月29日(日)

  • 2024.06.13
    三浦友和&山口百恵の二人を結んだ楽曲?! 松崎しげ...

    「愛の微笑み」から改題された

  • 2024.06.11
    マニフレックス公式HPの人気連載記事『暮らしのエッ...

    6月28日(金)~30日(日)

  • 2024.06.11
    田中邦衛、山本圭、加藤剛らが出演した社会派ドラマ「...

    日本を代表する彫刻家・佐藤忠良を父にもつ

  • 2024.06.10
    韓国500万人超えの大ヒットした、予測不能の海洋ク...

    応募〆切:7月10日(水)

  • 2024.06.06
    激動の20世紀を生きたあるの男の人生。〝世紀の小説...

    応募〆切:7月5日(金)

  • 2024.06.06
    八王子市夢美術館 特別展 「ルーヴル美術館の銅版画...

    応募〆切:6月30日(日)

  • 2024.06.06
    アカデミー賞Ⓡ 2度受賞の名優アンソニー・ホプキン...

    応募〆切:6月20日(木)

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!