20.09.24 update

仲人を務める世話好きなおじさんやおばさんのいた昭和

昭和44年に「見合い恋愛」というテレビドラマがあった。毎回さまざまなカップルを登場させ、見合い・恋愛模様を描いたホーム・ドラマ。この時代、見合いは圧倒的に少数派のようで、見合い=古風、恋愛=自由、という女性たちの価値観がすでに定着していたようである。ただ、結婚相談所を描いた回もあったので、形を変えて見合いは存続していたとも見える。女性たちの結婚観を通じても、昭和という時代が見えてくるのである。ちなみに、長谷川町子の漫画『サザエさん』でサザエさんとマスオさんが見合いをしたのはデパートの大食堂だった。昭和20年代のことである。


見合い

良家のお嬢さんたちの結婚へのプロセス

文=川本三郎

昭和の風景 昭和の町 2011年4月1日号より


 

「細雪」に見る戦前昭和の見合い

 谷崎潤一郎の名作『細雪』は昭和十年代の大阪と芦屋に住む薪岡(まきおか)家の美しい四姉妹の物語だが、ひとつの核になっているのは三女、雪子の繰返される見合いで、見合いの物語といってもいい。

 パリ帰りの、ある化学会社の社員との見合いをはじめ、兵庫県の農林課に勤務する水産技師と、さらに船場の製薬会社の重役(女学生の娘のいる男やもめ)と見合いを繰返す。そして最後は華族の青年との見合いでようやく結婚に至る。

 四度も見合いをしている。戦前昭和では良家の娘はこのくらい見合いを繰返すのは普通のことだったのだろう。

『細雪』では小説に描かれているだけで四度だが実際には雪子はもっと見合いをしていると思われる。だからなのだろう、市川崑監督の映画『細雪』(83年)では、雪子の結婚が決まったあと長女の鶴子(岸惠子)と次女の幸子(佐久間良子)が「あの人、ねばらはったな」と言うのが微苦笑を誘った。

 雪子の四回の見合いのうち三回までは井谷夫人という美容師が御膳立てをしている。「神戸では相当鳴らした美容院」の経営者で阪神間の裕福な夫人たちとの交流も多いから、縁談の世話をよくする。一種の顧客サービスであり、彼女自身、人の世話をするのが好きなのだろう。

小説『細雪』のモデルであった三姉妹。右端が谷崎潤一郎(写真上)の3回目の結婚相手であった松子夫人、谷崎は松子夫人やその姉妹たちとともに暮し、『細雪』の世界を実践した。(写真提供:芦屋市谷崎潤一郎記念館)

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映画は死なず

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