20.12.27 update

家族全員がこたつを囲む風景は、一家団欒の象徴

こたつは、昭和の映画を演出する小道具

 こたつは映画のなかでしばしば男女の愛情の場所になる。

 川端康成原作、豊田四郎監督の『雪国』(57年)では、昭和十年ごろ、東京から新潟県の雪深い温泉宿にやってきた画家の池部良が部屋のこたつに入る。

 なじみになった芸者、岸惠子が呼ばれてやって来る。二人は仲良くこたつに入る。こたつのそばには火鉢があり、そこにはやかんが掛けられ、酒が燗されている。ほどよいところで岸惠子がそれを取り出し、池部良にお酌をする。

 こたつのなかで美女のお酌で燗酒を飲む。男にとって最高のひとときだろう。

 川端康成の原作には主人公の島村(原作では職業は舞踏評論家)が、ある時、芸者の駒子の部屋に遊びに行くくだりがある。

 蚕を飼っていた農家の屋根裏を部屋にしている。部屋にはこたつがあり、駒子は部屋に入るとまず、「火燵布団(こたつぶとん)に手を入れてみて、火を取りに立った」。

 現代ではこの文章には注が必要だろう。部屋に入り、こたつに手を入れてみて温かくなったので、駒子は階下の主人の部屋に火を取りに行ったということ。

 女性が、上にかけた蒲団からこたつに手を入れて、温かいかどうかを確認する。これは昔の女性のたおやかなしぐさのひとつだった。

 『男はつらいよ』シリーズの第三作『フーテンの寅』(森﨑東監督、70年)では新珠三千代がこのしぐさをしている。

 おいちゃんとおばちゃん(森川信、三﨑千恵子)が冬、骨休みに三重県の湯の山温泉に出かける。

 宿に到着し、部屋に入る。ちゃんとこたつが用意されている。入ろうとするとおかみの新珠三千代(きれい!)が挨拶に来る。そしてまずこたつに手を入れて、温まっているかどうか確かめる。冬の旅館のサービスの基本だろう。

『フーテンの寅』はユーモラスな場面もある。渥美清の寅さんは例によって美しいおかみさんに惚れて、宿の番頭になる。

 冬のある夜、おかみさんとその弟(河原崎建三)、弟の恋人(香山美子)と四人でこたつにあたる。

 そしてこたつの蒲団の下でひそかに憧れのおかみさんの手を握る。ところが間違えて、弟の手を握ってしまう。こたつの時代の定番のギャグ。

「ねこあんか」と呼ばれたこたつで、器にたどん(左)や豆炭を入れて蒲団をかける。たどんを知っている世代も今は少なくなった。(写真提供:株式会社ちろり)

生活の洋風化とともに消えゆく、こたつ

 林芙美子の名作『浮雲』では、道ならぬ恋をしている富岡とゆき子の二人が、ある冬、伊香保温泉に出かける。そこでたまたま知り合ったバーの主人と若い女性と四人でこたつに入る。

 富岡は、この若い女性に気がある。そして─、「富岡は、何気なく、女性の膝に胡坐(あぐら)を組んだ自分の足の先をきつくあててみた。女は知らん顔をしている。富岡は、左の手で、蒲団の中の女の手にふれてみた。そして、静かに、女の横顔をみつめたまま強く握り締めた」。

 こたつの温かさが男の浮気心に火をつけたようだ。

 こたつが消えてゆくのは生活が洋風化してゆく昭和三十年代の後半あたりからだろう。現代の作家、中島京子の『さようなら、コタツ』はこんな文章で始まっている。

「今朝、梨崎由紀子は十五年間使っていたコタツを捨てた」

 わが家にもこたつはもうとうになくなっている。

かわもと さぶろう

評論家(映画・文学・都市)。1944 年生まれ。東京大学法学部卒業。「週刊朝日」「朝日ジャーナル」を経てフリーの文筆家となりさまざまなジャンルでの新聞、雑誌で連載を持つ。『大正幻影』(サントリー学芸賞)、『荷風と東京『断腸亭日乗』私註』(読売文学賞)、『林芙美子の昭和』(毎日出版文化賞、桑原武夫学芸賞)、『映画の昭和雑貨店』(全5 冊)『我もまた渚を枕―東京近郊ひとり旅』『映画を見ればわかること』『銀幕風景』『現代映画、その歩むところに心せよ』『向田邦子と昭和の東京』『東京暮らし』『岩波写真文庫 川本三郎セレクション 復刻版』(全5 冊)など多数の著書がある。

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映画は死なず

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