23.07.25 update

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産


長年スクリーンで楽しませてくれた映画人たちの訃報に接する機会が増えてきた。
それだけわれわれも年を重ねてきたということなのだが、やはり寂しい。
現在、国立映画アーカイブでは、『逝ける映画人を偲んで』と題して
2021年から2022年に鬼籍に入った映画人たちの作品を上映する
追悼企画が開催されている。
千葉真一、田村正和、田中邦衛、宝田明といった俳優から、
吉田喜重、澤井信一郎、青山真治、崔洋一ら映画監督、
さらに撮影、脚本、美術、音楽、衣装など映画に関わってきた
100名以上の映画人の業績を回顧・顕彰するオマージュとして
85作品(72プログラム)が上映される。
映画史にその名を刻む名作から、名作として語られる作品ではないが、
映画人たちの仕事がしっかりとなされた、その仕事の魅力を堪能できる作品まで、
なかなか劇場にかかることのない作品も含めた映画ファンを唸らせるラインアップ。
彼らの愛した映画の仕事は、時代を超えて永遠に輝き続ける。

▲『この声なき叫び』は、西村京太郎原作「四つの終止符」を柳井隆雄、石田守良、今井金次郎が共同で脚色。「孤独」の市村泰一が監督したシリアスドラマ。配給:松竹 1965年の作品。
母親殺しの嫌疑をかけられた聾者の青年を、田村正和(1943~2021)が演じた。田村正和は松竹を退社後、TV時代劇を中心に活躍。その後80年代のホームドラマ『うちの子に限って』『子供が見てるでしょ』『パパはニュースキャスター』や、トレンディドラマの『ニューヨーク恋物語』など数々の話題作に出演。二枚目でダンディな男性を演じ続けた一方、愛する娘に振り回される父親役など、主役スターとしての地位を築いた。2018年にフジテレビ系にて放送されたドラマ・スペシャル「眠狂四郎 The Final」が最後のドラマ出演となった。享年77。

千葉真一と東映の仲間たちが逝った 2021~2022

文=米谷紳之介

 映画館に通うようになった中学の頃から、役者や監督のプロフィールを見るのが好きだった。敬愛する小津安二郎が12月12日に生まれ、還暦を迎えた年の12月12日に亡くなっているのに気づいたのは大学時代。仮に小津学検定があったとしたら、5級程度の知識に過ぎないが、当時は大発見をした気分だった。
 あるいは、クリント・イーストウッド、スティーブ・マックイーン、ショーン・コネリーといったスターが全員1930年生まれだ。1931年2月16日生まれの高倉健は日本流にいえば、彼らと同学年になる。さらにジャン=リュック・ゴダールと深作欣二が1930年生まれ。こうした事実を知ると、映画史にも興味が沸いてくる。高校時代はようやくゴダールを知る一方で、深作の『仁義なき戦い』シリーズに熱狂した。とりわけシリーズ第2作『広島死闘篇』で、それまでの二枚目スターの殻を壊した千葉真一の演技には仰天した。狂暴で、手がつけられない暴れっぷりは映画史に残るキャラクター誕生を思わせた。

▲筆者・米谷紳之介氏による著書『侍役者道~我が息子たちへ~』。2021年8月に急逝した俳優・千葉真一の自伝であり、綴られた彼の言葉からは〝映画愛〟あふれる日本映画への熱い思い、映画人、役者としての仕事に向き合う姿勢などがダイレクトに伝わってくる。映画俳優としての在りようを模索し、日本映画の未来のために尽力し続けた人生だったことを思い知らされる。

 約半世紀後、その千葉をインタビューし、60年に及ぶ役者人生を書籍にまとめることになったのだから、幸運としか言いようがない。2020年の春に始まった取材は翌年夏まで続いた。6月末のインタビューで聞きたかったことはほぼ聞き終え、細部の確認をするために9月に会うことを約束して別れた。

「是非会いましょう。私は何度でも構いませんから」

 快活に語る笑顔が、ぼくにとって千葉真一の最後の記憶である。約50日後の8月19日、コロナウィルス感染による訃報が届いた。

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映画は死なず

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