オリジナル時代劇はここからスタートした!
もうひとつの「鬼平」の世界を描いた「鬼平外伝」シリーズ
CS放送局としてチャンネル初のオリジナル時代劇が初放送されたのは2011年だった。池波正太郎の『鬼平犯科帳』の原点といわれる、盗賊を主人公に描いた短篇集『にっぽん怪盗伝』に収められた作品を映像化した「鬼平外伝」シリーズである。盗賊や市井の人々を主役に、もうひとつの「鬼平」の世界を描いている。盗賊は、「鬼平」の魅力を語る上で欠かせない、影の主役といった存在である。
2011年放送の第一作「夜兎の角右衛門」は、盗まれて難儀をする者への手だしはしない、人を殺傷しない、女を手込めにしないという三つの戒めを看板に、闇の世界で生きる盗賊の二代目の末路を描いた作品で、主役を中村梅雀が演じたほか、中村敦夫、石橋蓮司、荻野目慶子、平泉成らが出演。同じく2011年に放送された第二作「熊五郎の顔」は、盗賊に夫を殺された女性が、その後も運命に翻弄されてなお、生きることのすばらしさに思いを馳せる物語。火付盗賊改方と盗賊との息詰まる攻防に、市井に生きる人々のドラマ、男と女の心の機微が織り込まれ、現代にも通じる人間の普遍的な営みが描かれている。ヒロインに寺島しのぶ、相手役に小澤征悦のほか、星野真里、山田純大、平泉成らが出演。平泉は第一作と同じく、火付盗賊改方の与力・鮫島久兵衛を演じている。
2012年には第三作となる「正月四日の客」が放送された。正月四日には毎年信州の<さなだ蕎麦>だけを客に出す江戸の蕎麦屋<さなだや>が舞台。蕎麦屋の亭主と盗賊という生きてきた環境も、置かれている立場も異なる2人が食べ物が取り持つ縁で出会うが……。蕎麦屋の亭主役の柄本明と、毎年正月四日に訪れる実は盗賊という役の松平健が、がっぷりと四つに組んだ芝居で魅せる。2012年度ギャラクシー賞奨励賞、2013年衛星放送協会オリジナル番組アワードオリジナル番組賞ドラマ番組部門最優秀賞を受賞。
2013年放送の第四作「老盗流転」は、盗賊一党の2人の若者が、逃亡の末、これからは知らないもの同士としてきっぱりと別れて35年後の再会により新たな物語が始まる。2人の主人公を、高橋光臣―橋爪功、加治将樹―國村隼のリレーで演じる。橋爪功の女房役で若村麻由美も登場。江戸に生きる人生の非情、人の心の闇を描いたサスペンスの味わいで、池波正太郎が愛したフィルム・ノワールの世界を彷彿とさせる、池波流〝江戸ノワール〟とも言える作品になっている。
2016年放送の第五作「四度目の女房」は、互いに想い合いながらも、江戸の闇社会に切り裂かれてしまった男女の命運を紡ぐ物語で、歌舞伎俳優の片岡愛之助が、テレビ時代劇初主演をつとめた。愛之助の女房役を前田亜季が演じたほか、山本陽子も出演。
闇社会の影の物語があるからこそ、「鬼平犯科帳」における鬼平の人間像が魅力的なものになり、時代劇の〝金字塔〟として、人々の心を捉え続けているのだろう。