19.03.23 update

「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から
55年目の「大石内蔵助」へ

SPECIAL FEATURE 2017年10月1日号より

テレビアニメ「鉄腕アトム」の放送が始まり、 翌年には東京オリンピックの開催を控えた昭和38年、詰襟姿で鮮烈なデビューを飾った18歳の舟木一夫。デビュー曲「高校三年生」は、あっという間に売上を伸ばし、 舟木一夫は一躍スターダムに押し上げられることになった。 デビューから半年間に「修学旅行」「学園広場」「仲間たち」が立て続けにリリースされその後に続く〝青春歌謡〞という流行歌のジャンルが生まれる先駆けにもなった。9月まで放送されていたNHK連続テレビ小説「ひよっこ」でも通学バスの中でヒロインたちが口ずさんでいたのが「高校三年生」だ。 「青い山脈」の次世代のみんなで歌える愛唱歌として、現在も、同世代の人々が、舟木の歌に自身の青春時代を重ね歌い継がれている。 高校三年生も、デビューから足掛け55年の歳月を重ねた。
12月には新橋演舞場で、芸能生活55周年ファイナルとして特別公演が上演される。演目は昼夜通し狂言での『忠臣蔵』で、舟木は大石内蔵助を演じる。これまで花も実もある多くの花形役者たちが演じてきた役だが、「僕が演じるにあたっては、他の役者さんたちと同じであったら意味がないと思う」と初役への意欲を語り、とにかく初日が楽しみだと言う舟木。商業演劇の娯楽時代劇というスタンスでの通し狂言で見せる『忠臣蔵』。舟木一夫の大石内蔵助がいかなる色合いを帯びるのか、興味が高まる。

企画協力・写真提供=新橋演舞場宣伝部、松竹写真室、マルベル堂(プロマイド)日本コロムビア(レコードジャケット)

いさぎよい人

文=齋藤雅文

昭和46年の紅白歌合戦で歌った「初恋」
学生服でデビューした舟木一夫はテレビやステージでも学生服が衣装だった。

  私は、こんなにいさぎよい人を知らない。
  舟木一夫さんは、きっと、どんな絶頂にあっても、次の日に全てを捨てて何の悔いるところもない人だろうと思う。
「執着」というものがないのかもしれない。といって、ふわふわとした心もとない人生観の持ち主でもない。
 その代わり「こだわり」は強い。「こだわり」が強くて「いさぎよい」という相反するものが、舟木さんの中で同居して成立しているのだ。
 昨年の十二月、新橋演舞場で『どうせ散るなら』という舞台を上演した。このタイトルに舟木さんはこだわった。というか、それに勝る題を、作者たる私も、制作も思いつかなかったのだ。制作や劇場は、少々捨て鉢で縁起が悪いと難色を示したのだが、舟木さんは「幕にかけて」押し通した。「幕に かける」というのは、幕内の言い方で、 意見が通らなければその舞台には出ないという強権の発動をいう。
 このタイトルは、まだ台本が書き上がる前、舟木さんが最初に電話でぼそっとおっしゃったもので、『天保六花撰』という、六人の悪党が一つのささやかな善行のために命を散らすという物語の本質を鷲づかみにしていると思った。
 そうかと思うと、一カ月公演の千秋楽の舞台では、とことん遊ぶ。それまでの芝居を壊しても、これでもかと遊び尽くすのだ。
 楽屋落ちなどという生易しいものではない。主人公が斬られたり、いるはずのない人物が現れて、全く別の展開にしてしまったりする。ご存じのファンの方ばかりだからいいようなものの、私は初めてそれを見た時、唖然としてあいた口がふさがらなかった。その「遊び方」の大胆なこと。捨て方のいさぎよさと言っていいか……呆然とするくらいのいさぎよさなのだ。

1 2 3

映画は死なず

新着記事

  • 2024.11.21
    「星影のワルツ」「北国の春」という2つの大ヒット曲...

    千昌夫「夕焼け雲」

  • 2024.11.20
    能登の子どもたちや被災者を、美しい音楽で励ましてく...

    被災者に勇気を与えるウイーン・フィルの活動

  • 2024.11.20
    指揮・坂本龍一✕東京フィルハーモニー交響楽団による...

    坂本龍一の伝説のコンサートを映画館で!

  • 2024.11.19
    ベートーヴェン「第九」初演から200周年の記念すべ...

    12月31日特別先行上映、1月3日から1週間限定公開!

  • 2024.11.19
    敷寝具から枕まで世界最大級の熟睡ブランド、〈マニフ...

    特別モデル【エコ サンドロ】限定3000台の予約開始!

  • 2024.11.18
    公募展の発祥地〈東京都美術館〉のテーマは「ノスタル...

    芸術活動を活性化させ、鑑賞の体験を深める

  • 2024.11.18
    女優「高峰秀子」と妻「松山秀子」─日本映画史に燦然...

    高峰秀子という生き方

  • 2024.11.15
    本格イタリアンをご家庭で、日清製粉ウェルナの「青の...

    応募〆切: 12月20日(金)

  • 2024.11.15
    京都のグンゼ博物苑で、昭和の激動時代の魅力を伝える...

    グンゼの創業の地で、「昭和レトロ展」

  • 2024.11.14
    「嵐」と並ぶシングル58曲連続トップテン入りを果た...

    THE ARFEE「メリーアン」

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!