19.03.23 update

「舟木一夫」という青春

新橋演舞場「舟木一夫特別公演」の軌跡

2017年12月新橋演舞場の舟木一夫特別公演の演目は通し狂言『忠臣蔵』。舟木が大石内蔵助を演じるほか、千坂兵部に里見浩太朗、浅野内匠頭に尾上松也、吉良上野介に林与一、大石りくに紺野美沙子、さらに田村亮、葉山葉子、長谷川稀世と、舟木言うところの、現在の時代劇の舞台では、ほぼ不可能と言っていいくらいの役者がそろった。
『「華の天保六花撰」どうせ散るなら』
平成28年12月
講談でおなじみの『天保六花撰』。舟木が演じるのは沢島忠監督の映画『美男の顔役』で大川橋蔵演じた金子市之丞。舟木とは舞台で幾度も共演している笹野高史と、魅力的な顔合わせが実現した。

芸能生活55周年記念
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『芸能生活55周年 舟木一夫CDコレクション前篇、後篇』
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舟木一夫 あゝ青春のプロマイド 監修:マルベル堂

 近ごろの不況の中で、団体客頼りの公演も安泰ではなくなった。いまだに単独主演で一と月の大劇場公演を続けている舟木さんの存在は、演劇界にとっても希有な光だ。
           ◇
 そんな舟木さんと、私は長いことご縁がなかった。
  私は、新派という古い劇団の文芸部というところにいて、舞台監督から台本書き、ありとあらゆる裏方仕事を長年続けている。一方舟木さんは、デビュー当時より、新派の川口松太郎先生から、新派に入らないかと誘われたり、新派の演目を何本も上演されたりしていた。
 しかし、不思議とご一緒することがなかったのだ。それが五年前、舟橋聖 一原作の『花の生涯』の脚色の話が突然持ち上がって以来、毎年演舞場公演のために一本ずつ、今年は大阪新歌舞伎座公演のためにさらに一本、書かせていただくことになった(ちなみに、井伊直弼と陰の軍師長野主膳を描いた 『花の生涯』、天一坊事件の黒幕山内伊 賀之亮を描いた『八百万石に挑む男』、 勝海舟の無頼な父、勝小吉の『気ままにてござ候』、天保六花撰の金子市之丞の『どうせ散るなら』、そして、広澤虎造の浪曲「次郎長三国志」から『鬼吉 喧嘩状』の五本である)。打ち合わせ、稽古、本番と、考えるとこの五年間は、ずっと舟木さんを中心に回っているようだ。

 そして『忠臣蔵』である。  
 およそ芝居や映像の脚本を書く人 間ならば、一度は書いて見たい『忠臣蔵』。男優もまた、一度は大石内蔵助を演じて見たいと思うのではないだろうか。
 人形浄瑠璃から始まり、歌や踊り、 絵や芝居、日本の芸能の重要なモチーフとして、忠臣蔵は様々に取り上げら れてきた。我が国には、「パロディ(風刺的模倣)」とは異なる「本歌取り」と いう伝統があって、先行する優れたものを取り込んで新しい作品に生かすことが許される。忠臣蔵は、まさに日本の文化が何層にも重なった、ドラマの宝庫なのだ。
 それだからこそ、忠臣蔵は、時代によって、社会によっていろいろな切り口や描き方が可能になる。今、忠臣蔵をやる以上、現代人の心に届かなければ意味がない。
 たとえば、浅野内匠頭の松の廊下での刃傷沙汰は、本当に短慮な殿様の浅はかな所業であったのか。大石内蔵助はそんな殿様をなぜ深く愛してやまなかったのか。吉良上野介という大名の屋敷に真夜中徒党を組んで乱入し、主を殺害するという事件は、当時の法に照らせば、親兄弟妻子まで打ち首になってもおかしくないとんでもない暴挙なのだが、それを決断し、指揮をとった内蔵助の葛藤はどれほどのものだったのか。そこには、「武士道」や「忠義」では割り切れない深い深い人間のドラマがあったと思う。
 私の心に浮かぶ舟木さんの内蔵助 は、「心から討ち入りをしたくなかった」と言う。なぜなら、一人の「恨みを晴らすため」に、四十七人と、それに連なる多くの人の命が失われてよいはずがない、と。何かが間違っていないか……、と。
  舟木さんは、そのこだわりといさぎよさで、現代に通じる大石内蔵助を、 生き生きと生み出してくれることだろう。劇作家として、本懐としか言いようがない。

ふなき かずお
歌手、俳優。1944年12月12日、愛知県一宮市生まれ。63年6月5日、「高校三年生」で歌手デビュー、「高校三年生」は発売半年で100万枚を超える大ヒットとなった。同年には同名映画『高校三年生』で映画デビューを飾った。同年の日本レコード大賞新人賞を受賞し、NHK紅白歌合戦にも初出場を果たした。紅白歌合戦には通算10回出場。ゴールデンアロー賞の第1回新人賞も受賞。デビュー2年目でNHK大河ドラマ第2作「赤穂浪士」に矢頭右衛門七役で時代劇初体験、その後大河ドラマでは「源義経」「春の坂道」「毛利元就」にも出演している。また、「夕笛」「初恋」など詩歌、文学をモチーフにした抒情歌謡と呼ばれるジャンルで第一人者的存在となり、66年には「絶唱」で日本レコード大賞歌謡賞を当時最年少で受賞、映画化もされ大ヒットした。映画監督&脚本家の松山善三の長編抒情詩を舟木の歌唱で綴るアルバム『その人は昔』は画期的な企画で当時のLPとしては記録的な売上となり、やはり映画化もされた。代表曲に「修学旅行」「学園広場」「仲間たち」「あゝ青春の胸の血は」「君たちがいて僕がいた」「花咲く乙女たち」「北国の街」「高原のお嬢さん」「哀愁の夜」「友に送る歌」「銭形平次」「太陽にヤア!」「夏子の季節」「くちなしのバラード」「浮世まかせ」「春はまた君を彩る」など多数。また、ヒット曲の多くが映画各社で映画化されている。テレビドラマでも「雨の中に消えて」「あいつと私」「泥棒育ちドロボーイ」「愛しすぎなくてよかった」(脚本:内館牧子)、12時間ドラマ「赤穂浪士」(清水一学役)、NHK連続テレビ小説「オードリー」など数多く出演している。近年は舞台では年2回の一ケ月の座長公演のほか、年間50日を超える全国でのコンサート(昼夜2公演)を実施している。01年に松尾芸能大賞を受賞。

さいとう まさふみ
1954年、東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業。80年、松竹傘下の劇団 新派文芸部に入る。新橋演舞場、歌舞伎座、日生劇場、明治座など各劇場の芝居、ミュージカルの多くの作、 脚本を手がける。94年『恋ぶみ屋一 葉』の再々演(作)において、読売演劇大賞最優秀作品賞を受賞。近年の作品に『竜馬がゆく 立志篇』(作・演出)、『ブッダ』(演出:栗山民也)、『狸御殿』(演出:宮本亜門)、『糸桜』 (作・演出)、『黒蜥蜴』(作・演出)など多数。舟木一夫の舞台は新橋演舞場公演13年の『花の生涯―長野主膳ひとひらの夢―』から本年の『忠臣蔵』まで5年連続で手がけている。

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