昭和21年、新生「トリスウイスキー」 が登場、昭和30年代前半にはサントリーウイスキーを出すトリスバーが東京・大阪を中心に続々誕生した。村松さんも、そのトリスバーに通ったおひとりである。
村松 僕の学生時代といえば、もっぱらトリスバーなんですが、あれは、酒場の雰囲気よりも、ウイスキーが飲みたいけれどお金がなくてという連中が集まるところで、ハイボール、やがてトリハイっていうようになりますが僕にとってウイスキーはトリス、50 円なんです。シロが150円で、ストレートが40円だったかな。だから 500 円あると10杯飲めるんです。つまみは柿の種と、ピーナッツとイカの燻製くらい。そこに宇野さんがいるわけがないですよね(笑)。
宇野 そうですね、僕はトリスバーには行ったことがないですね。アンクルトリスがトリスを飲んで顔色がだんだん赤くなっていくテレビコマーシャルは印象的でした。
村松 今、ハイボールブームらしく、ハイボールというのを珍しがって味を求めていますが、おいしいハイボールブームと、安いからハイボール、しかもトリスのハイボールしか飲めないんだからまるで違いますね。
宇野 酔いたい。味じゃないんですね。今ハイボールで有名なたとえば「銀座 サンボア」や銀座の新橋寄りの「ロックフィッシュ」などに行く人は、ハイボールの味を求めて行くでしょう。おいしいハイボールをね。
村松 それまでの日本人の中に根深く存在していた、バーや酒場のカウンターに座っているやつは極道でろくでもないという考えを切り替えて、カウンターで飲む文化を広めようとしてトリスバーを展開した。そのサントリーの佐治敬三さんの戦略に、真っ只中ではまっている学生でしたね(笑)。
宇野 トリスバーが成功すると、ニッカバーとか、オーシャンバーとか、日本のメーカーの名前のついた安いバー がでてきましたね。バーの看板にちゃ んと、ハイボール 50円、ストレート40円、それにたしかジンフィーズも100円か130円などと値段が出ていましたよね。だから学生は安心して入れたんじゃないですか。
村松 当時はいわゆるホテルのバーなどのちゃんとしたバーテンダーとは違う意味で、用心棒と人生相談と行儀の悪い客なんかを追い出す係りとして、 そういう役まわりのバーテンさんっていうのがいました。トリスバーっていうとなんとなく、バーテンダーっていうような酒をつくるだけの人ではな く、ものすごく頼りになるその店の男としてのバーテンさんが存在しているところでした。バーテンさんという言葉は、馬鹿にしている、軽んじているのではなくて実はバーテンダーを超えた存在の表現なんですね。バーテンダー以上の存在、そういう人だったんです。
宇野 そう、それでダイスやったり、カクテルつくったり、喧しいお客さんがいるとそーっと客のそばに行って、 そーっと外に連れ出したりして、何でもないように帰ってくるんですね。それでトランプの手品なんかやってくれるとやっぱり凄味がある、日活映画見ているみたいでね。
村松 ケンちゃんとかヤマちゃんとかみんな名前で呼んでいました。バーテンダーというのは、職業として認めている呼称ではあるけれども、バーテンさんという親しみとはちょっと違うんですね。
宇野 トランプやマジックをやる人が多いというのはなんなのでしょうね。
村松 それと、ダイス。金を賭けなきゃ安いゲームですよ。
宇野 それに何かバタ臭いですよね。 豪華客船のキャビンなんかのバーで、 客をもてなすような感じですね。
村松 サントリーは、僕はステップから言うとそのうち「シロ」を飲みたい なと思っていて。なにしろずっとトリハイばかりでしたからね。「角」なんてのは別世界。そう思っているうちに勤め人になって、 会社の仕事で行くようなところでは、お座敷なんかで対談をやりながら、「オールド」を水割りにして飲むというのをサントリーが展開したものだから、いきなりトリスのハイボールから「オールド」になっちゃって、ステップ踏むはずの「シロ」と「角」がとんじゃったんです。で、憧れのまま凍結しているんです。「レッド」はね、そのあとゴールデン街とか、 いろんなところで飲んでいましたけどね。
宇野 やはり「レッド」は飲まれましたか。そのころの「レッド」のボトル は、今の「ホワイト」のような丸いロングなボトルでしたか。
村松 丸い長いものです。宇津井健が浮かんでくるな、コマーシャルやってましたよね。「レッド」 や「シロ」はファンが多いですね。いまだに「シロ」しか置かない店というのを、どこかで聞いたことがあるし。
トリスウイスキーに親しんだ人が、も う少し上級のウイスキーを飲みたいと思ったときに手にする酒として、サン トリーレッドが発売されたのは昭和39年のこと。価格は500円。この年、ニッカも価格も度数も同じ「ハイニッカ」を売り出した。発売当初は「ホワイト」と同じような丸瓶だったが、翌40年にはデルクス角瓶と呼ばれるおなじみのボトルに代わった。そして、サントリーが提供していた人気テレビドラマ「ザ・ガードマン」の主演の宇津井健は「レッド」のコマーシャルにも出演、「レッド」の顔となった。