散歩は、街を一冊の本のように読むことだ。だから、スマホでの撮影は、読書感想を忘れないための、メモ書きみたいなものなのだ。この「スマホ散歩」を読んでくれた人が、それぞれの街を読書し始めたらとても嬉しい。何か楽しい風景に出会えることを願っている。
第38回 2023年6月27日
同じものが沢山集まっている状態を見かけると、足が止まってしまう。一つ二つ並んであっても、なんの感情も刺激されないのに、蝟集していると、目が引きつけられるから不思議だ。人形でも、商品でも、石ころでも、とにかく同じものがびっしりぎっしり集合していることがポイントなのだ。
グロテスクに通じる感覚が呼び起こされる事が原因なのか。刷り込まれた恐怖心なのかさっぱり分からない。
恐怖を巻き起こすのは、びっしりぎっしりが生き物だった場合だ。毛虫の群れに遭遇した時の恐ろしさは、思い出しただけで鳥肌が立ってしまう。ネズミや蛇のびっしりぎっしりは、冒険活劇映画の中だけで十分だ。
私が撮影したくなるのは、動かない物ばかりである。動かない物が蝟集していると、一瞬蠢いてるように感じる。だから立ち止まってしまうのだ。
はぎわら さくみ
エッセイスト、映像作家、演出家、多摩美術大学名誉教授。1946年東京生まれ。祖父は詩人・萩原朔太郎、母は作家・萩原葉子。67年から70年まで、寺山修司主宰の演劇実験室・天井桟敷に在籍。76年「月刊ビックリハウス」創刊、編集長になる。主な著書に『思い出のなかの寺山修司』、『死んだら何を書いてもいいわ 母・萩原葉子との百八十六日』など多数。現在、萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち 前橋文学館の館長、金沢美術工芸大学客員教授、前橋市文化活動戦略顧問を務める。 2022年に、版画、写真、アーティストブックなどほぼ全ての作品が世田谷美術館に収蔵された。