2019年10月1日号 「街へ出よう」より
客席数が100にも満たない小劇場に惹かれるのは、役者のエネルギーが観客に直に伝わり、泣いたり、笑ったり、一心同体となって感動を共有できるからであろう。
芝居で食べていけないのは当たり前、「演劇バカ」を自認する彼らには、
肝の据わった清々しさがあり、彼らが集う小劇場には、興行的に縛られない分、
役者としての自由度がある。
名演出・名俳優の大劇場もいいが、ときには街へ出て、小劇場に寄ってみよう。
若さに輝く情熱的な舞台に、魅了されることは間違いない。
小劇場の楽しみ
心揺さぶられる役者魂
文=太田和彦
小劇場の芝居には演劇の原点がある
今を去る50年も前の大学生のとき、唐十郎「状況劇場」の公演「アリババ」「ジョン・シルバー」「ジョン・シルバー新宿恋しや夜鳴き篇」「腰巻お仙 義理人情いろはにほへと篇」「アリババ傀儡版壺坂霊験記」「由比正雪」とたて続けに見て感銘して以来、演劇のとりことなった。
渋谷の喫茶店「プルチネラ」で見た、コーラ1本付きの、つかこうへい作「熱海殺人事件」は文学座アトリエ公演よりはやかったと思う。つか芝居は連続的に見たが観念的内容にいささか飽き、できたばかりの「東京乾電池」に毎回通うようになり、渋谷の教会地下にあったスペース「ジアンジアン」から下北沢「本多劇場」に進出するのを見続ける。
また水谷龍二・作演出の、売れないムードコーラス「山田修とハローナイツ」の内輪もめや哀歓を描いた「星屑の町」にすっかりはまり、以降水谷作はすべて通うことに。その男くさい集団劇「星屑の会」の一方、東京乾電池で客演していた三女優、松金よね子・岡本麗・田岡美也子が結成した「グループる・ばる」も熱心に通い、風間杜夫の一人芝居や、角野卓造の文学座公演の数々、さらに佐藤B作「東京ヴォードヴィルショー」や、今は解散した、劇中アカペラが名物だった劇団「カクスコ」も。そうして戸田恵子、キムラ緑子、あめくみちこのファンに。
これらは皆、小劇場演劇だ。新橋や日比谷の大劇場の商業演劇は、座長をおしたてた華やかで楽しい豪華舞台。紀伊國屋ホールや国立劇場など中劇場は、新劇系劇作家やチェーホフ、井上ひさしなど古典名作を軸とする正統演劇。対して小劇場演劇の魅力は何か。
それはずばり「演劇バカ」。
観客の前で何か演じたい情熱が、勉強的な名作よりも自分たちのオリジナルで勝負させる。劇団や芝居でメシが食えないのは百も承知、バイトして公演費用を捻出する、肝の据わった根性の清々しさだ。
発表場所は下北沢の「ザ・スズナリ」「駅前劇場」「OFF・OFFシアター」「小劇場 楽園」「『劇』小劇場」「シアター711」「小劇場B1」など。どこも100に満たない客席が、申し訳程度のステージを囲み、最前列席であれば目の前のそこで役者が演技する。
はるか向こうの大舞台で役者が何かしているのを遠く見るのとちがい、熱気の汗も飛び、顔の演技もありありと見える身近な熱演が同志的結合となり、台詞にどよめき、ドタバタに爆笑し、気持ちを込めた表情にシンとなり、心うばわれて涙し、終えたカーテンコールに立つ役者たちの晴れ晴れとした顔に心からの大拍手となる。が、若くほとばしる真剣な情熱は巧拙を超えて感動させ、ここから育てと目利きの気分も味わえる。ほとんどは初演ゆえ何が飛び出すかわからず、劇団名も知らない舞台に通うのはスリルがあり、たとえつまらなくても文句はない。しかしつまらないことは一度もなかった。ヘタでも情熱があり、そこに拍手した。ベテラン俳優があえて小劇場の観客の前に身をさらすのは自分の原点を確認するためだろ。