23.07.21 update

役者のエネルギーが直に伝わる小劇場を訪れる

ちらしデザインに惹かれ「フラッパーズ」を観る

「舞台『月の谷』『赤い石』『らん』スピンオフ企画『あず姫は家出をした』草木も眠る丑三つ時 月の光で身体をしっかり洗ったら 私は海を目指して家を出る」(小劇場楽園)
「ここ風~其ノ十七~ 作演出・霧島ロック『ッぱち!』久し振りにこの街に足を踏み入れた 桜並木の坂の上にある学校 暗くなるまで野球をした公園 みんなと蝉取りをした神社 あの頃のままのモノとそうでないモノと アイツは変わらんままでいてくれてるやろか それとも……」(シアター711)
「アガリスクエンターテイメント第27回公演『発表せよ!大本営!』1942年6月。行け行けドンドンの楽勝ムードで臨んだミッドウエー海戦にて歴史的な大敗を喫した日本軍。戦勝パーティーまで準備した海軍は、ショックも冷めやらぬまま新たな問題に直面する。――この結果をどう国民に発表する?」(駅前劇場)
「流山児★事務所公演『赤玉GANGAN~芥川なんぞ、怖くない~』純粋で正直でエロくて頑固 このペンで、天下を取ってやる! と叫んでは見たものの世間の圧力にはすぐ屈し 小さなコトからくよくよ悩む だけど夢見る力は誰にも負けない! そんな奴らの青春活劇、ここにあり!」(ザ・スズナリ)
 集めたちらしはみな面白そうだ。その中からデザインが素敵な「ジョーズカンパニー25周年記念公演『フラッパーズ~私たちにできること~』強豪陸上部の部室から遠く離れた棟の片隅に…控えの、そのまた控えの選手たちが出入りする部屋があった。レギュラーになれるチャンスもなく、ただ放課後毎日決められたように集まってくる選手たち…私たちって期待も必要もされてないの? と自分自身に各々が問いかけている。そんな彼らに思いがけない命令が下る!」(小劇場楽園)を見に行こう。

演者たちの懸命な姿に笑い、涙し、感動した

 本多劇場に隣接した地下1階の小劇場楽園は、床から15センチほどの平舞台を、角に大きな柱のあるL字の客席が囲む。まだ役者のいない空舞台の装置がすでにそこにあるのが小劇場のおもしろさで、ここで何が始まるのかと想像させる。今日は高校陸上部のウエアやタオルが干されている部室。キャパ
60人満員の客は女性が多く、小学生の子供連れもいる。やがて舞台は暗くなり始まった。
 女子高の名門陸上部に憧れて入部したが、補欠は部室も別で、練習したくてもグラウンドは使えず、正選手のウエアの洗濯と整理が仕事だ。「わたしたちこれでも陸上部?」とぼやく4人に、鬼の女子マネージャーは「きちんとたたみなさい」とハッパをかける。
 そんな彼女たちに下った学校の「思いがけない命令」は、「音楽部コンサートの女子合唱5人が食あたりで全員倒れたので、急遽明日のコンサートに代役で出ろ」というもの。
「なんで私たちなの」「そんなの無理」と猛反発するが、陸上ではないがこれも注目される舞台かもと、かつて音楽部でソプラノだった1人の指導で発声から始め、きれいにまとまるようになり張りきると、再び学校から「音楽部のメンバーは治ったのでいらない」という返事がくる。

ジョーズカンパニー25 周年記念公演『フラッパーズ~私たちにできること~』のチーム桜の熱演(2019 年8 月 小劇場楽園)


「代役すらおろされる」「バカにしないでよ」「私、先生に抗議する」という部員に、マネージャーはふりしぼるような声で「……でも音楽部の生徒も練習を重ねてきたのよ」とつぶやく。沈みこむ5人の1人が、やがてすばらしい提案をする。


 ―― 泣きました、笑いました、感動しました。
 何よりも若い女優5人の、演じる陸上部員も演劇をする自分も同じと、役をわが事としている熱気だ。若いだけに挿入される歌や踊りはお手のもの。物語が進むにしたがい、互いにそれまでかかえてきた挫折やコンプレックスがしだいに見えてきて、それが自分たちに大切なものとわかって友情となってゆく清々しさ。彼女たちは正選手よりも価値あるものを手に入れたのだ。
 2チームが交替出演している今日の「チーム桜」は12歳から21歳まで平均15歳! いちばん若い中学1年生は今回初舞台。週2回、中目黒で練習3ヶ月、夏休みの今、発表となったそうだ。しかも舞台後すぐに「東日本大震災義援金」の箱を持って並ぶ心がけよ。

 もう一度書きたい、ほんとうにすばらしかった。それは、観客の前で、皆で何かを表現したいという気持ちの純粋さだった。応援します!!

1 2 3

映画は死なず

新着記事

  • 2024.05.17
    町田市立国際版画美術館「幻想のフラヌール―版画家た...

    応募〆切:6月10日(月)

  • 2024.05.14
    阿木燿子作詞、宇崎竜童作曲の名曲を得て、自身初とな...

    ミュージシャンという肩書が似合うようになった

  • 2024.05.14
    全米の映画賞を席巻した話題作『ホールドオーバーズ ...

    応募〆切:6月5日(水)

  • 2024.05.14
    『あぶない刑事』の舘ひろし&柴田恭兵、70歳超コン...

    5月24日(金)公開

  • 2024.05.10
    背中トントン懐かしい ─萩原 朔美   

    第14回 キジュからの現場報告

  • 2024.05.10
    練馬区立美術館「三島喜美代─未来への記憶」展 観賞...

    応募〆切:5月31日(金)

  • 2024.05.10
    <特集>帰ってきた日本文化の粋 ─ 今、時代劇が熱...

    文=米谷紳之介

  • 2024.05.09
    吉田修一原作×大森立嗣監督が『湖の女たち』で再びタ...

    5月17日(金)全国公開

  • 2024.05.09
    東宝映画『ゴジラ』のヒロインに抜擢され、その後俳優...

    東宝から俳優座へ。

  • 2024.05.09
    松田聖子、田原俊彦らアイドル全盛期の昭和56年、西...

    アイドル全盛期のスター

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

information »

ロマンスカーミュージアムが3周年記念イベントを開催!

イベント ロマンスカーミュージアムが3周年記念イベ...

4月10日(水)~5月27日(日)

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!