2018年10月1日号「街へ出よう」より
最近、配達をしてくれる本屋さんがなくなったと聞く。
自転車の籠に雑誌をいっぱい載せて、お得意様は美容院などだったか。
電子書籍やネット書店が台頭する時代、街の本屋さんがひっそりと姿を消してゆく。
ちょっと寂しいことだが、それでも一度は行ってみたくなる本屋がある。
書棚には一冊ずつ選書にこだわった魅力的な書籍が並び、
知的好奇心を刺激してくれるようなお洒落な空間を演出している本屋さん。
知らない街に出掛けたら、本屋さんをのぞいてみたい。
〝自分好み〟の本屋探しを楽しみながら、運命の一冊に出合う喜びがあるかもしれない。
今どきの本屋が楽しい
~いい街には、いい本屋がある~
文・太田和彦
ハイセンスな町にふさわしい代官山蔦屋書店にて
私はかつて資生堂にデザイナーとして勤め、今も仲良くさせていただいている。先日「花椿」の女性編集長からのメールで、代官山 蔦屋書店で開くフェア「花椿から拡がる本の世界」に私の本も置いてくれるとのこと。やれうれしやと出かけた2号館のそのスペースは「花椿」の記事に関連したいろんな本を置いて、それぞれに解説がつく。
『草笛光子のクローゼット』草笛光子(記事=資生堂がお届けした伝説の花椿ショウ/1958年に始った資生堂が一社提供していた日本初のバラエティー番組「光子の窓」の司会を務めた女優・草笛光子の84歳現在の私服の着こなしが紹介されている。〝服も人生も怖がらず、楽しんで生きていきたい〟という草笛光子の魅力がつまった一冊。)
草笛さんが窓を開くところから始まるテレビ草創期の伝説のおしゃれな音楽番組だ。まだ録画技術のないころで、CMもその場で生放送の「生コマ」、出演は本社美容部員。制服に入念なメイクの出演は女子社員の憧れだった。
『Jubilee』細倉真弓〈記事=藤井隆さんと学ぶ「最高の笑い顔」/『花椿』ほかさまざまな雑誌でも活躍中の写真家・細倉真弓の写真集。今の時代の〝Female Gaze(女性のまなざし)〟を体言するひとりである彼女。カラーフィルターを用いたシリーズは、トーン・オン・トーンの世界が敷かれ、どこか知らない世界を見るような気持ちにさせる〉
へえ、本への興味をおこす解説って大事だな。さて私の本は、あったあった、アレ?
当然、私の資生堂時代のデザインワークをまとめた厚い作品集『異端の資生堂広告/太田和彦の作品』(2004年/求龍堂)が置かれると思っていたが、そこにあるのは『老舗になる居酒屋 東京・第三世代の22軒』(光文社新書)と『太田和彦の今夜は家呑み』(新潮社)の2冊。
解説は〈資生堂で異色の広告デザインを手掛けてきたグラフィックデザイナーであり、居酒屋探訪家としての顔も持つ太田和彦の著書。東京にある居酒屋の中で、今後「老舗」になっていきそうな気骨のある22軒を太田和彦が……〉〈家呑みにうってつけのおつまみレシピ集。居酒屋研究家の顔を持つ太田和彦いち押しの……『花椿』秋号の「「SHISEIDO MUSEUM」では彼がアートディレクターを務めた作品を掲載している〉
そのページも紹介されてまことにありがたい解説文だが、ありゃりゃりゃ。「優雅と気品」を社是とする資生堂のデザイナーが書いた本としてはまことにふさわしくなく、申し訳なくて穴に入りたい気持ちだ。「作品集のほうにしてよ~」と言いたいが、そうもゆかず、うなだれてそっとそこを後にした。