23.08.25 update

街に出掛けたら、本屋さんをのぞいてみよう

若き日のときめきが蘇る雑誌のバックナンバーたち

 書店といえば本がぎっしり棚に詰り、新刊が平台に積まれるイメージだが、ここの天井高い空間は本の威圧感は全くなく、しかも全面ガラスの外の緑あふれる光がさんさんと入り、まるで山の別荘の高級なリビングにいるようだ。
 窓際に並べた椅子に若い女性が雑誌を開き、ゆったりしたソファコーナーは、小さな赤ちゃんを寝かせた若いママが本を開いている。家にいるとつい目に入るものを片付けたりするが、ここに来ればそれはできないので本当にゆったりできる。むずかる赤ちゃんも不思議にぴたりと静かになると言うのは、本たちの生みだす落ち着いた波動を感じ取っているのではないか。
 私も〈都市のジャングルは家庭で緑のオアシスを夢見る〉と解説にある分厚いインテリア写真集『wonder Plants2』を開いた。洋書写真集ほど手元に置きたい本はないが置き場所がなく値段も高く、ここで観賞だ。


 隣には、れもんらいふ代表アートディレクター・千原徹也の新刊にちなむポスターいろいろが展示され、そのデザインは、私の現役時代の1ミリもゆるがせにしない厳格なものと違い、まことに軽快でうらやましい。こういう若い感覚に触れられるのもこの書店の良さだ。
 初めて上がった二階は、一階とはちがい、簡単な食事もできる中央のカウンターを、一角にグランドピアノを置いて広大に一周する、落ち着いた書斎風だ。四囲の書棚に目を見張った。それはすべて雑誌のバックナンバーだ。「新建築」「マリ・クレール」「カサ・ヴォーグ」「カーマガジン」「エスクァイア日本版」「メンズクラブ」「音楽の友」「ジャズ批評」「ステレオ芸術」「翼の王国」「暮しの手帖」「流行通信」「anan」「エピステーメー」「リュミエール」「ユリイカ」などなど、硬軟とりまぜた雑誌の大群よ。「幻影城」「ヒッチコックマガジン」はミステリファンには垂涎だろう。閲覧自由で、たまらず開いた若いころ胸ときめかせた映画雑誌「スクリーン」のグラビア「スタアは音楽がお好き」はギターをかかえたBB、CC(わかりますね、ブリジット・バルドー、クラウディア・カルディナーレ)がなんとも魅力だ。
 さらに、おお「平凡パンチ」のオンパレード! 端から端まで並ぶ中から引き抜いた最初期の一冊の表紙絵は大橋歩で、やはりこのイラストは水準高いなあ。トップ記事は「三船敏郎と石原裕次郎の爆弾宣言」として「五社協定に反抗する二大スターの共演と計算」をインタビュー。さらに「特別ルポ オリンピック村の美人評判記」はこの号が1964年とわからせ「美人選手」の笑顔のスナップがいい。
 私は翻然と気づいた。ここのゆったりした革張りソファに座り、コーヒーをとって、日がな一日往年の雑誌に読みふけりたい。それはなんと豪華な時間だろう。いや「平凡パンチ研究」の論文を書けるかも知れない。ここは最高の雑誌アーカイブだ。

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映画は死なず

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