23.08.25 update

街に出掛けたら、本屋さんをのぞいてみよう

本、美術、音楽、映画…夢の館で働きたくなった

 二階をつなぐ通路から映画のコーナーへ。棚をレンタルビデオが埋めるのはTSUTAYAでおなじみだが、注目すべきは、これと思う作品を並べた「コンシェルジュ セレクション」だ。例えば〈ハリウッドの中の異人たち〉として〈エルンスト・ルビッチやF・W・ムルナウなどサイレント期からヨーロッパで名声を得た監督達を招聘するのが、ハリウッドの常套手段だが、第二次世界大戦勃発で、ハリウッドへ亡命してくる映画人が後を絶たず、ルネ・クレール、フリッツ・ラング、ジャン・ルノワールなど多くの巨匠がハリウッドの地を踏んだ。チャップリンや、ヒッチコック、ビリー・ワイルダーも外国人だったし、「ベン・ハー」(1959)でアカデミー賞に輝くウィリアム・ワイラーやジョセフ・フォン・スタンバーグなどは移民でした。こうした、「ハリウッドの中の異人たち」が黄金期を支えました〉として関連作品がならぶ。
 書いている上村敬さん(ハンサム)は〈1967年東京生まれ。コロンビア・カレッジ・シカゴで映画製作を学ぶ。卒業論文は「ハリウッドにおけるB級映画の歴史について」。周りからは、ヨーロッパ映画好きと思われているが、アメリカ映画育ちである。代官山 蔦屋書店のシネマ・コンシェルジュとして、オープンから現職〉。
 私はまたも翻然と気づいた。これこそ自分のやりたい仕事だ。ビデオ整理、現場掃除でいいからこの人に弟子入りし、名画漬けになりたい!
 それからは夢の時間。本、美術、音楽、映画、この四つが私のすべて。それが全部ここにある。隣の音楽の館も入ったら夜になってしまう。


 気がつくと三時間もいた。それぞれにつけた詳細な解説は担当者の腕の見せ所か、読んでゆくだけでも面白くためになる、まさに夢の場所。近所に引っ越し、老後をここで過ごせたらどれだけ良いことだろう。これだけ楽しませてもらって手ぶらでは帰れない。
『千原徹也と、れもんらいふ〝デザインの裏側がよくわかる話〟』
『役者は下手なほうがいい』竹中直人
『フィルムは生きている』手塚治虫
『私が愛した映画たち』吉永小百合
『三船敏郎、この10本』高田雅彦
『石上三登志スクラップブック 日本映画ミステリ劇場』石上三登志
『未完。仲代達矢』仲代達矢
 購入した本がずっしり重い。家に帰ってもさらに夢は続くだろう。


おおた かずひこ 
グラフィックデザイナー、作家。著書に本欄が一冊になった『太田和彦の東京散歩 そして居酒屋』の他、『おいしい旅 錦市場の木の葉丼と何か』など多数。

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映画は死なず

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