散歩は、街を一冊の本のように読むことだ。だから、スマホでの撮影は、読書感想を忘れないための、メモ書きみたいなものなのだ。この「スマホ散歩」を読んでくれた人が、それぞれの街を読書し始めたらとても嬉しい。何か楽しい風景に出会えることを願っている。
第43回 2023年11月24日
住んでいるマンションの窓から、清々しい山の稜線が見える。街中でも、ふと見上げると、ビルとビルの間からひょっこり山が顔を出す。前橋で暮らし始めて、最も新鮮に感じたのはその事だった。ついつい山の尾根に目が惹きつけられてしまう。「あの山のふもとに今住んでいるんだ」という思いは気分がいい。
最近は、朝晩必ず山を見ているからなのか、見かける路面のひび割れ、タイルの欠け、雨の滲みがみんな山並みに見えてしまう。(笑)シミュラクラ現象は、3点の丸が顔に見える現象だけれど、私のは曲線が山の峰筋に見える類像現象だ。(笑)不思議なことにそれは、東京に帰った時に起こるのだ。私にとって、すでに前橋が故郷化している事の証左なのかも知れない。
はぎわら さくみ
エッセイスト、映像作家、演出家、多摩美術大学名誉教授。1946年東京生まれ。祖父は詩人・萩原朔太郎、母は作家・萩原葉子。67年から70年まで、寺山修司主宰の演劇実験室・天井桟敷に在籍。76年「月刊ビックリハウス」創刊、編集長になる。主な著書に『思い出のなかの寺山修司』、『死んだら何を書いてもいいわ 母・萩原葉子との百八十六日』など多数。現在、萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち 前橋文学館の館長、金沢美術工芸大学客員教授、前橋市文化活動戦略顧問を務める。 2022年に、版画、写真、アーティストブックなどほぼ全ての作品が世田谷美術館に収蔵された。