散歩は、街を一冊の本のように読むことだ。だから、スマホでの撮影は、読書感想を忘れないための、メモ書きみたいなものなのだ。この「スマホ散歩」を読んでくれた人が、それぞれの街を読書し始めたらとても嬉しい。何か楽しい風景に出会えることを願っている。
第44回 2023年12月25日
樹の周りを数匹の虎がぐるぐる回り、ついには美味しそうなバターになってしまう。子供の頃愛読した絵本「ちびくろサンボ」の、1番好きな場面だ。その後、サンボの母親がその虎バターを使ってパンケーキを焼く。重ねられて高くそそり立つ、なんとも美味しそうな丸い薄い形状のもの。当時の私は、そんな食べ物もの、見たことも聞いたこともなかった。戦後数年しか経っていない。バターも高級食材だった。
「これ食べたい、作って」
母親に言うと、おにぎりを押し潰した円形のものがお皿にのっていた。
黄色と黒のテープを見かけると、あのぐるぐる回る虎に見えてしまう。樹に巻き付いている虎テープ。路面にとぐろを巻いている虎テープ。どれもこれも、みんなバターになりたがっているように思えてならないのだ。(笑)
はぎわら さくみ
エッセイスト、映像作家、演出家、多摩美術大学名誉教授。1946年東京生まれ。祖父は詩人・萩原朔太郎、母は作家・萩原葉子。67年から70年まで、寺山修司主宰の演劇実験室・天井桟敷に在籍。76年「月刊ビックリハウス」創刊、編集長になる。主な著書に『思い出のなかの寺山修司』、『死んだら何を書いてもいいわ 母・萩原葉子との百八十六日』など多数。現在、萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち 前橋文学館の館長、金沢美術工芸大学客員教授、前橋市文化活動戦略顧問を務める。 2022年に、版画、写真、アーティストブックなどほぼ全ての作品が世田谷美術館に収蔵された。