散歩は、街を一冊の本のように読むことだ。だから、スマホでの撮影は、読書感想を忘れないための、メモ書きみたいなものなのだ。この「スマホ散歩」を読んでくれた人が、それぞれの街を読書し始めたらとても嬉しい。何か楽しい風景に出会えることを願っている。
第47回 2024年3月27日
障子に写し出された手の影絵とか、夏休みの野外映画会を思い出した。路上に設置されている変圧器に綺麗な影絵が描かれている。見かけた時の嬉しさ。変圧器は小さなスクリーンだったのだ。
私の家の近所にある変圧器は、早朝だけ向かい側にある幼稚園の樹の影を写し出す。わずかな時間で、直ぐに消えてしまう。だから、見れた時は、その日何かいいことがありそうな気がしてくる。(笑)
きっと、街中の変圧器には、それぞれその時にしか見れない影絵が出現するのだろう。ククルカン・ピラミッドの蛇の影のように、秋分、春分にしか表れない不思議な影が、実はどこでも観られるのだ。変圧器・ククルカン・ピラミッドが、都会には無数に聳え立っているのである。
はぎわら さくみ
エッセイスト、映像作家、演出家、多摩美術大学名誉教授。1946年東京生まれ。祖父は詩人・萩原朔太郎、母は作家・萩原葉子。67年から70年まで、寺山修司主宰の演劇実験室・天井桟敷に在籍。76年「月刊ビックリハウス」創刊、編集長になる。主な著書に『思い出のなかの寺山修司』、『死んだら何を書いてもいいわ 母・萩原葉子との百八十六日』など多数。現在、萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち 前橋文学館の館長、金沢美術工芸大学客員教授、前橋市文化活動戦略顧問を務める。 2022年に、版画、写真、アーティストブックなどほぼ全ての作品が世田谷美術館に収蔵された。