24.04.23 update

窓枠は世界を広げてくれる

散歩は、街を一冊の本のように読むことだ。だから、スマホでの撮影は、読書感想を忘れないための、メモ書きみたいなものなのだ。この「スマホ散歩」を読んでくれた人が、それぞれの街を読書し始めたらとても嬉しい。何か楽しい風景に出会えることを願っている。


第48回 2024年4月23日

大工さんに、窓枠を作ってもらい、車に乗せて旅をする。それが私の夢だった。

窓枠を、出会った風景の前に置いてみる。1番気に入った、窓からの風景が出現したら、そこに家を建てるのだ。

谷川俊太郎さんの文に

「窓は退屈な映画」

というフレーズがあった。そこで、私は三脚を窓の前にセットして、毎日一コマシャッターを押した事があった。木々の変化、空の変化が案外面白かった。日々の退屈な風景も、時間の調味料を加えてやれば少しは我慢が出来る。

以前、「窓」と言うビデオ作品を作った。友人知人の書斎の窓を撮影してインタビューをした。人はどんな窓からの景色を眺めて暮らしているのか、知りたくなったのだ。

あれから30年たった。先日、もう一度同じ人を尋ねて撮影した。なんと、大半の人の部屋に窓が無い。壁に向かって机が置いてある。外が見えるよりも落ち着くのだそうだ。年齢を重ねると、窓は頭の中に設置されるのだろう。そう言う私も、前橋の机が置いてある部屋の窓は、一年中カーテンを閉め切ったままだ。開けても廊下の壁が見えるだけなのだ。それでなんの不自由も感じない。海の見える部屋で仕事をしてみたい、などと夢見ていた私は、いったい何処にいってしまったのだろうか。(笑)

はぎわら さくみ
エッセイスト、映像作家、演出家、多摩美術大学名誉教授。1946年東京生まれ。祖父は詩人・萩原朔太郎、母は作家・萩原葉子。67年から70年まで、寺山修司主宰の演劇実験室・天井桟敷に在籍。76年「月刊ビックリハウス」創刊、編集長になる。主な著書に『思い出のなかの寺山修司』、『死んだら何を書いてもいいわ 母・萩原葉子との百八十六日』など多数。現在、萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち 前橋文学館の館長、金沢美術工芸大学客員教授、前橋市文化活動戦略顧問を務める。 2022年に、版画、写真、アーティストブックなどほぼ全ての作品が世田谷美術館に収蔵された。

映画は死なず

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