萩原朔美のスマホ散歩
散歩は、街を一冊の本のように読むことだ。だから、スマホでの撮影は、読書感想を忘れないための、メモ書きみたいなものなのだ。この「スマホ散歩」を読んでくれた人が、それぞれの街を読書し始めたらとても嬉しい。何か楽しい風景に出会えることを願っている。
第6回 2020年10月28日
携帯を持った途端、自撮りの欲望が湧いてくる。当然だ。人間とメディアの歴史を振り返ればよく分かる。
画家にとって自画像は魅力的なテーマだった。写真が発明されると、セルフポートレート。ビデオが出現した当初、ビデオ・アーティストはみんな自分にビデオ・カメラを向けた。ビデオの次に携帯登場。
だから、自撮り棒を伸ばすのだ。
私は、自分の影を撮影している。自撮りだと自分が見ている風景が入らない。それが寂しいから仕方なく影を撮る事になった。
風景の中に居る自分の影は、自分のような他人のような、幻影のようで、妙にリアリティある不思議な存在だ。今では、自撮りより、「自影撮り」の方が私は好きになってしまった。
はぎわら さくみ
エッセイスト、映像作家、演出家、多摩美術大学名誉教授。1946年東京生まれ。祖父は詩人・萩原朔太郎、母は作家・萩原葉子。67年から70年まで、寺山修司主宰の演劇実験室・天井桟敷に在籍。76年「月刊ビックリハウス」創刊、編集長になる。主な著書に『思い出のなかの寺山修司』、『死んだら何を書いてもいいわ 母・萩原葉子との百八十六日』など多数。現在、萩原朔太郎記念・水と緑と詩のまち 前橋文学館の館長を務める。