私の生前整理 2014年7月1日号より
文=寺田 農
俳優
計画的に事を成そうってことが苦手なタチで
―― 生前にいろいろ身の回りを整理しておこうなんて気持ちはおありですか
いやぁ、そんなことはこれっぽっちも思ったこともありませんね、第一に自分が死ぬなんてことすら考えたこともないもの
―― でも、こう申してはなんですが、お歳頃からして何時、何があってもおかしくはないんじゃないですか
そりゃまぁ、そう言われちゃそうなんですけどねぇ(苦笑)、だけどそんなことを毎日気にして暮らすことも出来ないし、だいたいね、ぼくは若いときからそうなんだけど、なんか計画的に事を成そうってことが苦手というかむしろ行き当たりばったりみたいな生き方しかしてこなかったからねぇ。いまさらこんな歳になったんだから来るべき時のためになんかをしとけなんてことは無理だね
―― 親しかったお友達のなかにそのように身の回りをきちんとして逝かれた方なんかはいらっしゃらなかったんですか
いるワケないじゃないですか、まずはそんなきちんとした事をするようなのが仲のいい友達なんかに絶対にならないね。ぼくと同じ考えあるいは同じキャラクターをどっかで持っていなきゃ付き合っちゃいられないでしょ、これは男女を問わずにね
幸か不幸か、整理する財産もなければモノもない
―― ではやはりそんなことはまったくお考えにはならないんでしょうか
まぁまったくという事はもちろんありませんよ、ただね、じゃ何をどう整理したらいいのかがよくわからんのですよ。そりゃ幾許かの財産を持っていたり、子供の時からのコレクションが膨大にあったり、あるいはヤマのような蔵書があったり、ひとそれぞれにいろいろあるとは思うんですが、幸か不幸かそんなものもまったくないからなぁ
―― では逆にこれだけは遺された身内に大切にして欲しいなんてものは
いやぁそれこそそんなもんなんにもありませんよ、むしろ今までぼくのやってきた事なんかをすべてオールクリアー、真っ白にしてみんな忘れて欲しいね。今までの数々の映画、テレビつまり残っている映像なんかを含めてまっサラにしてくれるんなら「整理」も考えないことはないんだけど、そうはいかんもんねぇ。だいたいね、そんなこと考えたってどうにもならんと思うよ。よく災害に備えて防災グッズなんかしっかりと準備しているなんてひといるでしょ、でも被災したときにそばにそのグッズがなきゃ意味ないでしょ。だから「整理」なんてことも結局は同じことじゃないかな。何時死ぬのかなんて誰にもわからんのだから。死んでしまったら何もかも終わり、死んだヤツの勝ちなんですよ。早い話が「死者の驕り」でいいんじゃないの。なるようにしかならんということだね。ヒトは死ぬときは死ぬんだぜぇ……。
しかしなんだねぇこのタイトル「生前整理」って、あまりにもストレートで身も蓋もないね(大笑)、まぁそれもいいかっ(哄笑)
てらだ みのり
俳優。1942年東京生まれ。文学座付属研究所出身。65年『恐山の女』で映画デビュー、68年岡本喜八監督『肉弾』で毎日映画コンクール主演男優賞受賞。映画・ドラマ・声優など様々なジャンルで活躍。07年板橋区立美術館運営協議会長就任。08年4月より東海大学文芸創作学科教授就任。「現代映画論」「演劇入門」「戯曲・シナリオ論」ほかを担当。