1970年代から80年代にアメリカを中心に活躍したオーストラリア出身のエンタテイナー、ピーター・アレン。アカデミー賞最優秀歌曲賞受賞曲になった映画『ミスター・アーサー』のテーマ曲でクリストファー・クロスが歌った「ニューヨーク・シティ・セレナーデ(Arthur’s theme)」、オリビア・ニュートン=ジョンの「愛の告白(I Honestly Love You)」、メリサ・マンチェスターやリタ・クーリッジが歌った「あなたしか見えない(Don’t Cry Out Loud)」など、数々の名曲を生み出している。“My songs are my biography”と語っていたピーター・アレンの生涯を、彼が生み出した名曲とともに綴るミュージカル『THE BOY FROM OZ』が、坂本昌行主演で上演中である。
98年にオーストラリアで初演され、2003年にはブロードウェイで上演、ピ-ターを演じた同じくオーストラリア出身のヒュー・ジャックマンは、トニー賞のミュージカル部門で主演男優賞を受賞している。日本初演は2005年で、坂本は初演から、06年の再演、08年の再々演とピーター・アレンを演じ続けており、今回の公演は14年ぶりの上演となった。20年に3度目の再演が予定されていて、当時ピーターを演じる坂本は48歳を迎えており、「ピーターが亡くなった年齢と同じ年齢で演じることができるのは、何か運命のように感じている」と言っていたのを思い出す。残念ながら、コロナ禍により、その年の公演は見送られた。
今回の公演には、坂本同様、初演からの出演となるジュディ・ガーランド役の鳳蘭、ジュディの娘で結婚相手となるライザ・ミネリ役の紫吹淳、ピーターの母親役の今陽子が再結集している。さらに、ピーターの恋人グレッグ役には、19年のリーディングシアター『キオスク』では舞台単独初主演を飾った末澤誠也(Aぇ! group/関西ジャニーズJr.)が抜擢され、『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』など数々のミュージカルをはじめとする舞台で精力的に活動を続け、中止となった20年の公演でも新メンバーとして発表されていた宮川浩は、ピーターの父親と、敏腕マネージャーの2役で出演している。
オープニングからテンポのいいステージで、達者な大ベテラン勢に交じり、坂本昌行の歌唱がさえわたる。また、ダンスや所作にニュアンスのある表情を見せてくれる。17年の舞台Off-Broadway Musical『MURDER for Two』では読売演劇大賞優秀男優賞を受賞しており、舞台俳優としての地位を確立したとうかがえる座長ぶりである。また、初ミュージカルとは思えない末澤誠也の歌唱も魅力的である。
前回に続き演出を務めるフィリップ・マッキンリーが「まるで上品なワインのように熟成された作品になっている」と語れば、坂本もまた「初演から色褪せることのない作品」と応える。さらに鳳蘭は「ミュージカルは曲が命。再演を重ねると血管の中に曲が入り込んでくる。ミュージカルは、演じるたびに、演じ手も観客も感じ方がどんどん深くなっていく」と再演の大きな意義の実感を吐露する。ラインダンスなど、パフォーマンスシーンも華やかで、エンタテインメントの楽しさ、豪華さ、ドラマ性がつまったミュージカルと感じられた。
今回の初日は6月18日で、ピーター・アレンの命日である。この作品から、生きることのすばらしさ、生命賛歌のようなものがメッセージとして心に響いた。観るべきミュージカルとして、お薦めしたい。
『THE BOY FROM OZ』
Supported by JACCS
演出:フィリップ・マッキンリー
振付:ジョーイ・マクニーリー
出演:坂本昌行
紫吹淳 末澤誠也(Aぇ! group/関西ジャニーズJr.) 宮川浩 今陽子 鳳蘭 ほか
東京公演
〔公演日程〕6月18日(土)~7月3日(日)
〔会場〕東急シアターオーブ
〔問〕東京グローブ座03-3366-4065
大阪公演
〔公演日程〕7月14日(木)~7月16日(土)
〔会場〕オリックス劇場
〔問〕キョードーインフォメーション0570-200-888(10:00~16:00※日祝休業)