17.06.28 update

素晴らしき仲間たち

第1回 
八千草薫、浅丘ルリ子、加賀まりこ
ドラマ『やすらぎの郷』の女優たち

2017年4月3日、注目すべき新しいテレビドラマがスタートした。毎週月曜から金曜のお昼の時間帯に 半年間全130回放送の「やすらぎの郷」である。

脚本は「前略おふくろ様」「北の国から」などテレビ史に残る 数々の名作ドラマの執筆を手がけた倉本聰氏。 そして、タレントたちが席捲する今のテレビ界では奇跡とも言える まさしく〝本物〟の俳優たちが顔をそろえるのも大きな話題。主演は石坂浩二で、浅丘ルリ子、有馬稲子、加賀まりこ、八千草薫といった 銀幕のまぎれもない大女優たちが一堂に会するのだ。

中高齢の視聴者に向けた︑新しいタイプの大人の帯ドラマというわけだ。ドラマ撮影中の現場に、出演女優たちを訪ねてみた。そこには、映画やテレビに真摯に向き合い、同時代を生き抜いてきた同志ともいえる俳優たちが、新たなドラマ作りを真剣に楽しむ幸せな時間が流れていた。

文=二見屋良樹 撮影=言美歩

(Vol.31 2017年4月1日号より)

テレビに愛を込めて
倉本聰が贈る「やすらぎの郷」

 シニア世代に向けた倉本聰脚本による帯ドラマ「やすらぎの郷」の出演 には主演の石坂浩二をはじめ、浅丘ルリ子、有馬稲子、加賀まりこ、草刈民代、五月みどり、常盤貴子、名高達男、 野際陽子、藤竜也、風吹ジュン、松岡茉優、ミッキー・カーチス、八千草薫、 山本圭( 50 音順)と、すばらしく贅沢な顔ぶれが名を連ねる。

  ドラマの舞台となるのは、テレビの全盛期を支え、真剣にテレビと向き合い、テレビを愛した俳優、作家、ミュー ジシャン、アーティストたちだけが入 居を許された〝テレビ人〟専用の老人ホームである。この物語設定には、現在のテレビ界、あるいはテレビドラマの在り様に対して、倉本聰が打ち鳴らす何かしらの警鐘が込められているのではないか、と受け取るのは、一人よがりな見解だろうか。

 倉本聰といえば、山田太一、向田邦 子と合わせて〝シナリオライター御三家〟と呼ばれ、「6羽のかもめ」「前略 おふくろ様」「あにき」「北の国から」 「うちのホンカン」シリーズなど人々の記憶に残る、数多くの魅力あるテレビドラマを生み出してきた脚本家である。各テレビ局が上質なドラマ作りにしのぎを削っていた時代、脚本家も演 出家も、そして俳優たちも、〝いいドラマを作りたい〟という一心で、それこそ命を削るようにテレビと真剣に向 き合っていたのではないだろうか。そ れはテレビを愛すればこその行為に他 ならない。そんな時代のテレビから放 たれる空気感みたいなものを、ドラマ 「やすらぎの郷」を通じて、倉本聰は視 聴者に届けようとしているのではないかと、勝手に想像するのである。

  石坂浩二が演じるのは、どこか倉本聰自身を投影した部分もあるのではと思える、その才能をもてはやされたシナリオライター。浅丘ルリ子、加賀まりこ、八千草薫らは、ホームの入居者であるかつての大スターを演じる。実 際の大物女優たちが、往年の大スター を演じることで、虚実皮膜のドラマの世界観が醸し出されるに違いない。

  出演者たちは、このドラマをどのように見ているのであろうか。

  石坂浩二は「近年、明らかにシニア 世代が増えているのに、テレビ界、ドラマ界はそれに対するメッセージをほとんど発してこなかったのではないでしょうか。老人ホームというこれまで あまり描かれていなかった題材に挑 む、パイオニア精神に満ちた作品」とコメントしている。

やちぐさ かおる
女優。ドラマ「うちのホンカン」シリーズ、「前略おふ くろ 様」「拝啓、父上様」「歸國」「おりょう」「遠い絵本」など倉本聰作品に多数出演。

  倉本作品に数多く出演している八千草薫は「たとえば、あなたが好きだと ダイレクトに言うのではなく、いろんなセリフやシーンの積み重なりで思いを伝えるというのは、倉本さんならではの本の魅力なので、一つひとつのセ リフやシーンがおろそかにできないん です。浅丘さんとは今回初めてなので すが、テレビドラマがすごく盛んだっ た時代に、作品は違っていても、その 時代、時間をご一緒していたという安 心感があるんですね。だから、楽しいですね」と話す。日本映画の黄金期に 活躍し、同時期にテレビドラマでも多 くの作品にそれぞれ主演していた八千 草薫と浅丘ルリ子は、今回が初共演。 それだけでも、映画、ドラマ好きには 大きなトピックである。

あさおか るりこ
女優。倉本聰作品にはドラマ「2丁目3番地」「3丁目4番地」「秋のシナリオ」「川、いつか海へ」などに出演している。

  浅丘ルリ子は「随所にすてきなセリフが出てきますし、演じていてよくこんな面白い本がお書きになれるな、と 思えるすばらしい脚本です。倉本さん は、私と兵ちゃん(石坂浩二)と加賀さんのことは個人的にもよくご存じで、 普段の私たちの会話じゃないかしらと思えるようなセリフも出てきます。八千草さんとも初めてという感じが全然 しないんです。お芝居がすごくすてき で、他の誰がやってもかなわないとい うような演技の品というものを見せて くださいます。出演者、スタッフのみなさんと同志のような心の通い合いを 実感する現場です」と語る。

かが まりこ
女優。1964年公開の主演映画『月曜日のユカ』の脚本は倉本聰が手がけた。(斎藤耕一との共同脚本)。ドラマでは「あひるの学校」「拝啓、父上様」などの倉本作品に出演。

 加賀まりこは「表には出ない、内面の部分まで しっかり観察していらして私が演じる 役らしく書いてくださる。セリフの引 き出し方が見事で、無理してセリフを 言う必要がないんです。これだけのすばらしいキャスティングがかなったのは倉本さんの功績ですね。倉本さんから「頼むね」って言われれば、いやだと言う人はまずいないと思います。倉本さんを信じている人たちが集まってい るのだと思います。思いを同じにする人たちが集まっている現場は、すごく楽しいですよ」と脚本を絶賛。

  家族、遺産、過去への想い、恋、死への恐怖、芸術への心残りといったテー マが、倉本聰が長年、芸能界、 テレビドラマに関わってきた経験を集大成させた脚本と、熟練の俳優たちにより紡 がれ、心揺さぶられる上質の 人間喜劇が披露されるに違 いない。

 テレビドラマの黄金期を 創り上げた〝テレビ人〟たち だからこそ、実現できたドラマだろう。

脚本:倉本聰/出演:石坂浩二、(以下50音順 で)浅丘ルリ子、有馬稲子、加賀まりこ、草刈民代、 五月みどり、名高達男、野際陽子、藤竜也、風吹ジュン、松岡茉優、ミッキー・カーチス、八千草薫、 山本圭 ほか。

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