24.11.01 update

田中邦衛、露口茂、山本學らと俳優座養成所で同期の井川比佐志は、『どですかでん』『乱』『夢』『八月の狂詩曲』『まあだだよ』など黒澤明映画の常連だった

★特集コラム 劇団俳優座80年の役者たち Vol.12

2024年2月10日に創立80周年を迎えた「劇団俳優座」。劇団俳優座で活躍した名優たちをクローズアップしてお届けする。第12回は優座養成所7期生の井川比佐志(1936年11月17日~)。

 井川比佐志は、1936年に旧満州国奉天市で生まれ、旧満州からの引き揚げを経験したのは小学生のときだった。高校卒業後、55年に俳優座7期生として入所。同期には、田中邦衛、露口茂、山本學、藤岡重慶、中町由子、水野久美らがいた。
 養成所を卒業すると劇団俳優座に入団し、真船豊・作『見知らぬ人』で初舞台を踏む。以降『桜の園』 『セチュアンの善人』『追究』『ザ・パイロット』『鹿の園』『母』『戦争と平和』など多数の作品に出演した。

▲俳優座公演『ザ・パイロット』(65)で六平太を演じる井川と、左はクリスを演じる平幹二朗。原作は宮本研。クリス(クリストファ・リビングストン)はB29の操縦士だった。 同い年のクリスと六平太は、国は違えども原爆投下を巡って自らに責任を感じていた……。クリスが罪を犯した長崎を訪れるのだった。
▲俳優座公演『ザ・パイロット』(65)左は、2010年から俳優座代表をつとめた大塚道子。他に山本圭、佐藤オリエ、平幹二朗、永井智雄、中谷一郎、中村敦夫、岩渕達治、野村喬、いいだ・もも、福田善之らが出演。大塚は2002年に舞台『放浪記』で森光子演じる林芙美子の母親役を務め、「第27回菊田一夫演劇賞」を受賞。また2011年には俳優座公演『樫の木坂四姉妹』で「紀伊國屋演劇賞・個人賞」を受賞している。

 
 

▲俳優座公演『鹿の園』(69)での井川。ノーマン・メイラーの原作を安井武が演出。

 

 映画デビューは養成所時代、同期の田中邦衛らと出演した今井正監督の『純愛物語』(57)だった。新藤兼人監督『第五福竜丸』(59)、安部公房原作・脚本、勅使河原宏の監督作品『おとし穴』(62)に主演し高い評価を受けた。初期のテレビドラマでは、「ダイヤル110番」「刑事」「若者たち」、NHK連続テレビ小説「おはなはん」等にも出演。テレビ版「男はつらいよ」では、諏訪博士役を演じ、映画『男はつらいよ 望郷篇』(70)ではマドンナ・長山藍子の恋人役で寅さんの恋敵になった。『男はつらいよ シリーズ』としては5作目だったが、前作に比べ観客動員が格段に増加しシリーズは延長されることになった。

 九州・長崎の小さな島を出て北海道の開拓部落を目指す5人家族の姿を描いた、山田洋次監督の『家族』(70)では、倍賞千恵子と夫婦役を演じた。黒澤明監督、脚本は橋本忍、小国英雄が共同執筆した『どですかでん』(70)では、井川は日雇作業員の増田益夫役を演じ、『家族』と『どですかでん』で1970年キネマ旬報賞主演男優賞、『家族』で毎日映画コンクール主演男優賞を受賞した。72年には山田洋次監督の『故郷』にも出演し、熊井啓監督『忍ぶ川』での演技と併せて、2度目のキネマ旬報賞主演男優賞に輝いた。

 
 73年、俳優座を退団。安部公房スタジオに入り、『愛の眼鏡は色ガラス』『友達』『幽霊はここにいる』に出演したのち、77年にフリーとなった。

 
 映画での出演がますます多くなり、増村保造監督『曽根崎心中』(78)、篠田正浩監督『夜叉ケ池』(79)、熊井啓監督『天平の甍』(80)に出演。その後は、シェイクスピアの『リア王』を戦国の世に移し換えた『乱』(85)、続いて『夢』(90)、リチャート・ギアを招いての『ハ月の狂詩曲(ラプソディー) 』(91)、黒澤の遺作となった『まあだだよ』(93)と黒澤作品への出演が続いた。『乱』と同年の伊丹十三監督『タンポポ』(85)の演技と併せて毎日映画コンクール助演男優賞を受賞。
 90年代に入ってからも多くの映画、テレビ作品に出演しているが、北野武監督『3 – 4 X 10月』(90)、小泉堯史監督『博士の愛した数式』(06)、後藤俊夫監督『Beauty/ うつくしいもの』(08)、木村大作監督『劔岳・点の記』(09)などで幅広い役を演じた。92年にも『戦争と青春』『泣きぼくろ』『八月の狂詩曲』などで、日本アカデミー賞 優秀主演男優賞を受賞している。02年に紫綬褒章、08年に旭日小綬章を受章。

 NHK土曜ドラマ「閃光の遺産」や、ドラマ人間模様「海峡」、大河ドラマ「竜馬がゆく」「勝海舟」「徳川家康」などにも出演。ドラマの刑事役でも鬼刑事、ときには人情に厚い刑事であったり、いぶし銀の演技が光る俳優の一人である。
 もうすぐ米寿を迎える。


映画は死なず

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