21.09.20 update

和菓子屋三代目の美学

文=菜の花 会長 髙橋台一

箱根彩彩 2020年4月1日号より


美術や古道具の蒐集癖はお饅頭作りに通じた

 明治38年(1905)小田原で創業された和菓子屋の三代目の私には、なぜか幼い頃から美術や古道具に心ひかれ、気に入ると無理をしてでも手に入れてしまう性癖があります。黒田泰蔵の白磁、井上有一の書、沖縄パナリ焼きの蒐集、本の出版、絵、織物、ガラス、やきもの、古道具など。
 良いものは、いい。ホンモノは、いい。じっと見ているだけで、ホッとするものがありました。茶道の所作の美しさに魅せられ茶器や道具のおもしろさに心がひかれています。今では菓子の商売は息子に四代目を任せて、小田原の創業の地をギャラリー「うつわ菜の花」に模様替えして皆さんに鑑賞していただくことが大きな楽しみです。因みに1年間に25回ほどの展示会を催しています。
 菓子作りでもとことんこだわって、ホンモノを追求しました。明治から続いた屋号の「菓匠 光榮堂」を「和菓子 菜の花」に思い切って変えさせもらいました。同時に自分の代でホンモノの温泉饅頭を作ってやろうと思い立ったのです。ところがどっこい、私が納得できるお饅頭を作るのに大変な苦労がありました。たかが饅頭と笑われるかも知れませんが、とにかく美味しい温泉饅頭を作ろうと、良質な素材を、八方手を尽くして集めること、信頼できる生産者探しから始まりました。

「箱根のお月さま」は、ちいさな子供にも人気のお饅頭

箱根の一隅で追求したホンモノの味

 口にしていただくものですからまずお客様の健康に配慮しました。もちろん余分な添加物は一切無し。皮の素材は群馬近郊の小麦、沖縄の波照間産の黒糖、餡は北海道十勝の小豆、昔からいい水が出る小田原の松原神社近くの地下水を汲み上げて、岐阜産の氷砂糖(北海道産甜菜糖使用)に、沖縄産の天然の塩、それらを素材にして、じっくりと20分間飽和蒸気で蒸しあげて、しっとりと柔らかく、餡も程よい甘さに仕上がったのです。 
 19年前の3月3日、箱根湯本に「まんじゅう屋 菜の花」をオープンしましたが、爾来、箱根のお土産ナンバーワンとなり、温泉饅頭「箱根のお月さま。」は、「和菓子菜の花」の一番人気の商品になりました。お客様には新鮮でおいしいお饅頭を提供することだけを考えて、その日作って、その日のうちに食べていただこうというお饅頭の〝鮮度〟をモットーとしましたので、これだけは今でも箱根湯本の工房で手作りしています。
 ところで、最近モノ作りは直接地球環境の変化と関わっていることを実感しています。たとえば十勝の小豆にしてもこれまでは大きい寒暖差が大粒の小豆を作ってきたのですが、ここ8年足らずで、作物に変化が見られます。地球環境の危機を訴えた、スウェーデンのグレタ・トゥンベリ(17)さんが温暖化によるリスクを訴えていますが、我々も他人事ではないとはっきりと感じます。また、昨年、箱根も温暖化による天災に大きなダメージを受けています。特に、箱根といえば箱根登山鉄道の列車が浮かびますが、残念なことに、大雨で土砂崩れが起きその復旧が待たれています。1年はかかると言われていますが、箱根湯本から強羅間の登山電車は箱根の象徴ですから一刻も早く動き出して欲しいと願っています。

文=
「うつわ菜の花」のギャラリーには選りすぐりの作品が並ぶ

たかはし たいいち
1947年神奈川県小田原市出身、成蹊大学卒業。71年光榮堂入社。83年株式会社菜の花社長、2018年より会長。「和菓子菜の花」の店舗は小田原、箱根、辻堂、横浜。「うつわ菜の花」代表。「うつわ菜の花」「箱根菜の花展示室」菜の花暮らしの道具店」で企画展を開催する。

映画は死なず

新着記事

  • 2024.11.21
    「星影のワルツ」「北国の春」という2つの大ヒット曲...

    千昌夫「夕焼け雲」

  • 2024.11.20
    能登の子どもたちや被災者を、美しい音楽で励ましてく...

    被災者に勇気を与えるウイーン・フィルの活動

  • 2024.11.20
    指揮・坂本龍一✕東京フィルハーモニー交響楽団による...

    坂本龍一の伝説のコンサートを映画館で!

  • 2024.11.19
    ベートーヴェン「第九」初演から200周年の記念すべ...

    12月31日特別先行上映、1月3日から1週間限定公開!

  • 2024.11.19
    敷寝具から枕まで世界最大級の熟睡ブランド、〈マニフ...

    特別モデル【エコ サンドロ】限定3000台の予約開始!

  • 2024.11.18
    公募展の発祥地〈東京都美術館〉のテーマは「ノスタル...

    芸術活動を活性化させ、鑑賞の体験を深める

  • 2024.11.18
    女優「高峰秀子」と妻「松山秀子」─日本映画史に燦然...

    高峰秀子という生き方

  • 2024.11.15
    本格イタリアンをご家庭で、日清製粉ウェルナの「青の...

    応募〆切: 12月20日(金)

  • 2024.11.15
    京都のグンゼ博物苑で、昭和の激動時代の魅力を伝える...

    グンゼの創業の地で、「昭和レトロ展」

  • 2024.11.14
    「嵐」と並ぶシングル58曲連続トップテン入りを果た...

    THE ARFEE「メリーアン」

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!