自然体のなかに
品性が香る
富司純子さん
第4号の表紙は富司純子さんにご登場願った。お相手を務めていただいたのは、脚本家の三谷幸喜さんで、お2人にとって初の一緒の仕事となった、三谷さん脚本のスペシャルドラマ「わが家の歴史」のオンエアを控えた時期だった。三谷さんが書いた富司さんの役は「上品だけど芯が強く、芯は強いけど控え目。控え目だけど、しっかり者で、しっかり者だけど、かわいい」。つまり、「かなり難しいキャラクター」だった。大好きな富司さんに、思った通りに、それ以上に自分の作った役を魅力的に演じてもらえて、「僕は幸せ者です」と三谷さんは語っている。
早春の午後、撮影場所である恵比寿のフレンチレストランに現れた富司さんは春の陽ざしのような温かさと春風のような爽やかさをまとっていた。「作品をいつも拝見している三谷さんからやっとお声をかけていただいたのですもの、もう嬉しい! っていう一言です」という憧れの人の言葉に、三谷さんは胸をときめかせながら、ひたすらはにかむ少年のようだった。なにげない白いブラウスなのに、富司さんが着ると貴婦人の装いになる。飾らない美しさとはこういうことなのか、と女優に目が釘付けになった。
立ち姿、足の組み方
すべてゴージャス
草笛光子さん
第5号に登場していただいたのは草笛光子さん。何度目かの再演となる『6週間のダンスレッスン』の公演を控えていた。港町・横浜のご出身で、どこか〝バタ臭い〟、〝ハイカラ〟なイメージから、撮影場所は新宿のバーに決まった。お相手は映像作家、エッセイスト、演出家、大学教授と多彩な顔を持つ萩原朔美さんで、やはり初顔合わせだった。萩原さんは草笛さんを「克己の品性」と表現した。そして原稿の中で、「草笛さんは若い。実年齢と心身とが乖離している」と紹介する。「実は原因は明瞭だ。草笛さんは今日まで歳を取ってきたのではない。若さを重ねてきたのである。当然なのだ。若さを重ねることが、女優という生き方なのである」と続け「舞台人の宿命なのである」と結んだ。撮影から一年後、草笛さんから食事へのお誘いがあった。もちろん、萩原朔美さんもご一緒にということだ。この表紙撮影を機に、お二人はすっかり意気投合し、現在も親交が続いている。
高貴な香りの
花の名前の
知性の人
第6号は岡田茉莉子さん。ご一緒していただいたのは、映画を論じる人物として岡田さんがもっとも信頼を寄せるお一人である四方田犬彦さん。シンポジウムや上映会などで幾度となく顔を合わせている間柄だが、「一緒に表紙に登場するなんて大変なことになっちゃった」と、いつもとは勝手が違う様子の四方田さんだった。岡田さんは美貌と高雅な雰囲気を持ち、さらには類まれなる知性の人であると四方田さんは言う。そして「松竹にいたときは日本映画史のトップだったのが、世界で一番新しい映画を担う夫君・吉田喜重監督作品のヒロインになり、世界水準になった」と映画人・岡田茉莉子をリスペクトする。撮影後、銀座の資生堂パーラーで岡田さんとテーブルを囲む栄誉に浴した。大女優を前に何を食べたのかまったく憶えていないが、数々の日本映画についてお話してくださったのは、私の大きな財産になった。撮影した岡田さんのソロショットは岡田さんにも夫の吉田監督にもとても気に入っていただき、大きく引き伸ばして欲しいとの依頼を受けたのも名誉なことだった。