24.01.15 update

加山雄三、佐藤允と共に昭和30年代の東宝映画を支えた爽やかでワイルドでイカした二枚目 俳優・夏木陽介

 だが、夏木陽介の名前と顔を全国区にしたのは、65年に放送が始まった、日本テレビ系列の連続ドラマ「青春とはなんだ」だろう。本作は、その後に続く日本テレビ系日曜8時の青春ドラマシリーズの第1作にあたり、学園内だけでなく、古臭い習慣でがんじがらめの田舎町の改革にも向き合う、夏木演じるアメリカ帰りの型破りの熱血教師・野々村健介は一躍人気者になった。裏番組には緒形拳が秀吉を、高橋幸治が信長を演じ人気を博していたNHK大河ドラマ「太閤記」があったが、高視聴率を誇った。その後、竜雷太、浜畑賢吉、村野武範、中村雅俊らが教師役を受け継いでおり、「これが青春だ」の布施明が歌う同名曲、「飛び出せ!青春」の青い三角定規が歌う「太陽がくれた季節」、「われら青春!」のいずみたくシンガーズが歌う「帰らざる日のために」などの主題歌もヒットした。中村雅俊の「ふれあい」も、「われら青春!」の挿入歌から生まれ、中村雅俊の代表曲となった。藤山陽子、酒井和歌子、島田陽子らが演じたマドンナ的存在の美人教師もドラマに華を添えた。

 その後も「太陽野郎」「東京バイパス指令」「兄貴の恋人」「明智探偵事務所」などに主演している。73年には、東宝の大先輩でありプライベートでも交遊があった三船敏郎から「力を貸して欲しい、俳優が必要なんだ」と乞われ、竜雷太と共に三船プロダクションの所属となり、竜雷太、渡哲也と共にマカロニ・ウエスタン調の時代劇「荒野の用心棒」にも主演している。そして、75年から79年にはTBS系列のヒット・ドラマ「Gメン‘75」にレギュラー出演し人気を得た。

 自動車好きとしても有名で、免許を取得して以来、当時の高級車やスーパー・カーをはじめ、数百台は乗り換えたという話をきいたことがある。85年、86年にはラリードライバーとして、ダカールラリーにも出場している。パリ・ダカールラリーを舞台にした、蔵原惟繕監督、倉本聰脚本、高倉健主演の88年の映画『海へ~See you~』では、三菱シチズン・チーム監督を演じた。

 夏木さんを振り返るとき、車が好きで、麻雀が好きで、大の甘党で、俳優としての仕事同様に、むしろそれ以上に人生を楽しむことを謳歌した男の像が浮かび上がる。体を鍛え、アクション・シーンもスタントなしでこなし、お洒落でダンディ。義理に堅く、情に厚く、面倒見が良い頼れる兄貴。アラン・ドロンや赤木圭一郎とも交流があったときいている。生涯、〝青春の時〟を過ごした夏木陽介は、昭和の男だった。今でも、僕の携帯には、夏木さんの携帯番号がそのまま残されている。

文=渋村 徹


※プロマイドの老舗・マルベル堂では、原紙をブロマイド、写真にした製品を「プロマイド」と呼称しています。ここではマルベル堂に準じてプロマイドと呼ぶことにします。

マルベル堂
大正10年(1921)、浅草・新仲見世通りにプロマイド店として開業したマルベル堂。2021年には創業100年を迎えた。ちなみにマルベル堂のプロマイド第一号は、松竹蒲田のスター女優だった栗島すみ子。昭和のプロマイド全盛期には、マルベル堂のプロマイド売上ランキングが、スターの人気度を知る一つの目安になっていた。撮影したスターは、俳優、歌手、噺家、スポーツ選手まで2,500名以上。現在保有しているプロマイドの版数は85,000版を超えるという。ファンの目線を何よりも大切にし、スターに正面から照明を当て、カメラ目線で撮られた、いわゆる〝マルベルポーズ〟がプロマイドの定番になっている。現在も変わらず新仲見世通りでプロマイドの販売が続けられている。

マルベル堂 スタジオ
家族写真や成人式の写真に遺影撮影など、マルベル堂では一般の方々の専用スタジオでのプロマイド撮影も受けている。特に人気なのが<マルベル80’S>で、70~80年代風のアイドル衣装や懐かしのファッションで、胸キュンもののアイドルポーズでの撮影が体験できるというもの。プロマイドの王道をマルベル堂が演出してくれる。
〔住〕台東区雷門1-14-6黒澤ビル3F


読者の皆様へ
あなたが心をときめかせ、夢中になった、プロマイドを買うほどに熱中した昭和の俳優や歌手を教えてください。コメントを添えていただけますと嬉しいです。もちろん、ここでご紹介するスターたちに対するコメントも大歓迎です。

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