映画作品は枯渇しない
─― 東映グループはいろいろな事業があるから心配ないでしょうが、映画がこけたらまずいでしょう。
岡田 企業というのは一つの事業の依存度が30%超えたら危機だと思っています。プロダクションでも、一人の優秀な俳優に依存して、もしその人がいなくなってしまったらゼロになってしまう。映画も同じです。映画で30%を超える、テレビで30%を超えるというのは企業体力がないんです。総合商社を例にとれば、この原油安でも、びくともしないでしょう。コロナ禍は自分たちの経営責任ではないけれど、一つの事業に経営特化していた航空事業などは厳しい状況になっています。一部門を15~20%に抑えて、そういうものをたくさん作っておかないと。
─― 数ある単館映画館の経営は大変ですね。
岡田 それは大変なことです。どういうふうに助けてあげたらいいか……。まず換気の問題は各映画館で違うし、シネコンをつくるにあたっては先ほど話したように環境や空調設備等々の基準を満たしていないとやらせてくれなかったけれど、旧来の映画館にとって確かにコロナ禍対応は大変でしょう。とにかくクラスターが出ないことを祈っています。1館でると映画館が全部悪いイメージになってしまう。それに製作の方も止まってしまっていたから、出せるフィルムもない、これが困っていることですね。
─― そうなると、2020年の日本アカデミー賞の対象になる作品が激減しますか。
岡田 日本アカデミー賞は、12月15日までに公開する作品と決めていたのですが、これを年内一杯に延ばして、授賞式は3月半ば過ぎまでに延ばすという話が出ています。ぎりぎりの本数は確保していきますが、実は待機している作品がたくさんあるんですよ。邦画では毎年600本くらい作品はできています。
─― 映画界の業績は、どのくらいの数字になりそうですか。
岡田 新聞の経済欄を読んでいても、前年比何10%下落というような話ばかりです。経済活動がストップしてしまったのだから悪くなるのは当たり前。下落してもトントンなら食べていけるんだから、今年は目標をトントンにしようと言っています。東映グループの場合、第一四半期はアニメーションの貢献が大きく版権収入やテレビ配信などで業績も悪くなかった。しかしこの時期、前年比を問うことはやめないさいと言っています。大事なことは今年食っていこう、ということ。そう言っていると社員がみんな頑張ってくれている。周りからの応援もありますし。
─― 夏休みでシネコンが賑わっていますが、アニメが増えましたね。
岡田 アニメはコロナ禍でも製作がストップされなかったのです。最後の編集はしなければならないけれど、それこそスタッフがリモートでできましたからね。今シネコンで宮崎アニメが3、4位です。『風の谷のナウシカ』など、違う世代が観ても新鮮でよかったと喜ばれています。俳優さんは10年経つと変わりますが、アニメは主人公が歳を取らない、永久に変わらない、そんな特権があるんでしょうね。
─― 今、ウイズコロナを言われていますが、コロナが終息したあと映画界はどうなりますか。
岡田 映画界は元に戻らないでしょう。「覆水盆に返らず」という諺がありますが、何かが変わります。その何かを見極めているところです。絶対変わる、変わることを前提に自分が考えていかないとだめですね。
─― それは観客も含めてですか。
岡田 そうです。観客も含めてです。映像は配信に行くと言われていますが、配信に向かったらそれをどうするかを考えればいいわけです。映画館がソフトを出さないから配信ができないと言われるけれど、配信をしてもらうために映画を作っているわけではなく、まず映画館を守る立場でやっているわけですから。江戸と明治時代のことを言えば、我々は江戸時代の人間で、明治がこうなるといわれても、それは発展でなく変化でしょ。配信がいいのか、映画館で観るのがいいのか、それはお客さんが決めることです。ただ、いま当たっている作品は、若い人がかなり来ています、「ドラえもん」なども、親が映画館に連れて行くことをどう判断するか。コロナ禍だからといって、家にいて誰とも接触しないことに比べれば何とも言えませんが、子どもが我慢できないでしょう。他の娯楽施設より映画館のほうが公衆衛生上、安全安心なんですよ。シネコンの特権で、当たっている作品は多くのスクリーンで観る機会を増やせます。フィルムがなくて上映できない時代と比べると映画館の運営は画期的に変わりました。
観て笑える作品が待望される
─― 岡田会長が社長になる前から推進されたデジタル映画。その功績は大きいですね。
岡田 「俺がやった」というようなつまらない自慢はしません(笑)。当時デジタルの時代と言ったら、あの人頭おかしいんじゃないかって言われて馬鹿にされた思い出のほうが大きいですよ。
─― 当時映画がデジタルになる、フィルムなどいらないなんて、皆理解できなかった。
岡田 僕だって初めて東広島市にシネコンを作って、『ダイナソー』という恐竜のデジタル映像が映ったときは、「あーきれいな絵が出ている」と泣けて仕方なかった。世界初、アメリカから電波を送ってやりますよ、ということだったけれど、映らなかったら、しばらく開業間もない映画館を閉めなければならなかった。
─― アフターコロナは映画も変わりますね?
岡田 変わります。しばらくアニメ黄金時代になりますね。アメリカでもアクションを人間がやるのは後回しになるのでは。どういうものを人が望むだろうかと考えると、作品が面白いかどうかでしょう? ナンセンスコメディで、こんなのが当たるの? というような感じの作品がうけるという傾向もあります。コロナとか災害など忘れて、2時間でも楽しみたい、と。映画で人生を真面目に考える時代じゃないかもしれないし、でもそれはお客さんが判断することだと思います。
─― 役者、映画人に対してのフォローは。
岡田 一番気の毒なのは、舞台だと思います。小劇団は発表する場がなく、アルバイトしながら好きで一生懸命やっている人たちが、飲食店などのバイトをする場も失われた。この話は根深い。ただ、彼らをどう守るかということは、これから会社経営だけでなくエンターテインメント業界全体のことを考えていかなければいけない立場が来るかもしれない。
─― 東映グループ会長としては。
岡田 コロナが収まるか、もっと広まってしまうのか、こればかりは予想していても始まらない。一番困るのは、不安感と安心のバランスだと思う。これからの7~9月は皆相当厳しくなる。秋以降大変でしょうと言われても分からないし、そういうことを考えても仕方ない。「結論の出ないことは考えない、討論しても結論のでないことは初めから討論しない」というのが僕の持論です。これはどうなるだろうか、こうなるだろうかということは考えない。会社が安心できる場所、そういう環境を提供していくことをまず優先します。
─― 次に来る映画は。
岡田 森繁久彌さんが、「俺にこんなくだらないことばかりやらせて、片や黒澤明にはあんなにお金を出して、稼いでいるのは俺たちじゃないか」と笑いながら言ったことがありましたけど、稼いだのは、社長シリーズや駅前シリーズ、若大将シリーズ、男はつらいよ、東映でも『トラック野郎』など世紀に残る名作と言われる作品ではない。肩ひじ張って観るのではなく、あまり深刻にならず、気楽に観て笑えるそんな娯楽作品じゃないでしょうか。