
荒川区町屋が、「巨人の星」の街という異名があったのはご存知だろうか。漫画「巨人の星」の主人公・星飛雄馬一家の住まいが荒川区町屋9丁目6番地に設定されていて、この街をモデルにしていたからだ。実際には荒川区町屋は1丁目から8丁目しかなく、9丁目は存在しないのだが。プロ野球広島カープから米大リーグのシカゴ・カブスに移籍し、今年大活躍の鈴木誠也選手も、荒川区町屋の出身である。そんな「巨人の星」の舞台になった街、鈴木選手が生まれ育った街「町屋」を京成線・町屋駅を起点にして散策してみた。

「ゆいの森あらかわ」は荒川区民の〝知の広場〟
京成線と東京さくらトラム(都電荒川線)が交わるのが町屋の街である。京成線・町屋駅は、京成本線の延伸時、1931年(昭和6)12月に開業した。それより早く東京さくらトラムの前身、王子電気軌道は1913年(大正2)に開通し、開業当時の駅名は「稲荷前」だった。1969年(昭和44)に東京メトロ千代田線も乗り入れると、「町屋」周辺は都心からのアクセスが一段とよくなり、駅周辺は再開発が進んで高層ビルやマンションも多くなった。けれども地域密着の昔ながらの商店街は健在で、喫茶店や花屋、居酒屋、寝具店などが残っていて、見つけるとホッとする。
京成町屋駅の近くの「町屋文化センター」に情報収集に立ち寄ると、スタッフの皆さんが総動員してくれて勧められたのが、荒川区ご自慢の図書館「荒川区立ゆいの森あらかわ」。開館したのは2017年3月26日。約60万冊の蔵書を有し、各フロアーにゆったりとした閲覧席が設けられていて、「ゆいの森」と命名されるように、木材をふんだんに使った施設である。荒川区は「読書を愛するまち・あらかわ」宣言がなされ老若男女が集う区民のための「知の広場」だ。
ここには、荒川区東日暮里に生まれた小説家・吉村昭を紹介する記念文学館が2階から3階にかけて常設されているのも売り物。戦史、歴史、医学、動物など幅広い題材を扱った吉村の蔵書や、書斎を再現展示したコーナー、吉村の妻で芥川賞作家の津村節子の作品の世界を紹介するゾーンなどもある。生前は三鷹市に居を構えながら、郷土をこよなく愛した吉村昭の秘蔵品がふるさとに戻ってきたのも何かの因縁か。
荒川区ではノンフィクション作家・評論家の柳田邦男氏の協力のもと、「柳田邦男絵本大賞」を創設し、絵本を読んで出会った感動を手紙形式で柳田氏に宛てて募集するなど、全世代に絵本の魅力を普及発展させる事業も行っており、フロアー1階には「柳田邦男絵本コーナー」も設置されている。子供から大人まで読者に親しむ工夫や、コミュニティの場が設けられ、文化センターの職員さんがお薦めしたくなるのも納得した次第である。

[住所] 荒川区荒川2-50-1 [問] 03-3891-4349 [開館時間] 9:00~20:30 [休館日] 第3木曜日・年末年始・特別整理期間・メンテナンス休館日









