アンティーク蒐集は究極の自己満足である
中目黒駅に近いアンティークショップ「ラシエネガ」はよく前を通り、一度入ってみたいと思っていた。趣味的な小さな店に見えたが大間違い、五階建てのビルで、地下は倉庫、一階は工房、その上が店。シャンデリアが専門とあるとおり、高い天井からぎっしり下るシャンデリアが豪華だ。私には全く無縁のものだが、間近に見るとじつに精巧で、「これなど最高級です」とそっと指を触れるのはバカラ社のクリスタルガラス棒が二重三重に輪をつくって無数に下る。
また一方の戸棚三段にぎっしり並んで、下から光の当たる小さな香水瓶群のすばらしさ。資生堂に勤めていた私はこの価値はよくわかり、先日文化功労賞となった福原義春名誉会長の香水コレクションも知っているが、代表的な製品だけでなくメモリアルなプレミアム品などまさに宝石だ。
体格堂々たる店長平田総一さんは、コレクションは「アールデコ以降、1930年~70年代」と決め、照明器具を軸にインテリアアクセサリー、オブジェ、アンティーク雑貨を扱う。二階の「1960~70年代のイタリアンモダン」は、当時最先端のモダニズムだったのが、時代がひと回りして今アンティークになった。「これは期間が短かっただけに愛おしいんですよね」と言うのがよーくわかる。バブル景気のころ高級クラブなどによく使われた。私の真鍮好きに「僕もなんです」とその魅力を語ってくれ、同好の士を得た気持ちだ。
まさに夢の国。私は目が離せない。ドアノッカー、置物など一つ一つ感心しているが、腹の中では自分でも買えるものを探してそっと値札をチェック。目をつけたのは重い真鍮のドアプレート、鼠の鉄像がつくドア下止めの三角板、貝の形の真鍮のペーパークリップ……。う~ん悩ましい。
ここで舞い上がってはいけないと自省しつつ買ったのは高さ四センチ、手籠を持つ婦人のロングスカートの中が振り鈴の「ハンドベル」。真鍮の精密な彫りの表情が語りかけ、音は涼やか。これを机に置き、気分が飽きたらそっと鳴らそう。