23.01.17 update

気取った料理屋では味わえない寛ぎの湯気けむるおでん屋さん

お多幸 銀座八丁目店

大正12年に太田コウさんが始めた「お多幸」。そのお多幸で戦後、裸一貫で兵庫から出てきた現オーナーの野田康彦さんの祖父が修業し、昭和27年にのれん分けをしてもらったのが、「お多幸銀座八丁目店」の始まり。ちなみに当時5丁目にあったお多幸は、現在日本橋に移転し、「お多幸本店」として営業している。やや色の濃い関東風の出汁はすっかりおなじみだ。人社12年目の木村皇城さんが、小鍋で下煮した大根などを大鍋に移して味を染み込ませる仕込みをしていた。はんぺん、すじ(魚)・信田巻は日本橋の神茂から仕入れるが、その他の種物は、山梨にある自社工場製である。人気のおまかせ盛り合わせ1人前。こんにゃく、焼きちくわ、厚揚げ、昆布巻き、ちくわぶ、大根、豆腐、すじなど、はんぺん、いいだこなど。1階と2階はカウンターとテーブル席、3階は掘りごたつの和室になっていて、予約も可能。4名以上の宴会に使い勝手がいいスペースだ。

〔住〕中央区銀座8-6-19 〔問〕03-3571-0751


浅草おでん大多福

創業100年を機に建て替えを決め、約2年大川橋の仮店舗で営業をしていた老舗の「浅草おでん大多福」。2019年10月3日、創業の地に再び灯りがともった。解体された古材を倉庫に保管しながら再利用できるものを選び出し、大旦那(4代目)の舩大工安行さんは職人さんと楽しみながら新店舗の内装に取り組んだ。1階の使いこなされたカウンターや、撫でられ、つるつるになった柱、2階の入り口扉、常連さんの名前の入った「ちろり」がかけられた棚など、歴史を刻して愛されてきたお店の様子が伝わってくる。新装・大多福には、大旦那の孫の海斗さんが加わり、5代目の茂さんと三代で老舗の味を守る。1階はおなじみさん用の隠れ家のような趣で、大旦那がカウンターに立つ。2階はカウンター席と、テーブルの個室があり、それぞれ「日和」「柳緑」「可惜夜」など、海斗さんが思いを込めて命名したそうだ。大根、銀杏、はんぺん、こんぶなど約40種がある。品書きの筆や、お皿のデザインは大旦那の「作品」。老舗「浅草 おでん大多福」で、日本の伝統食を愛でる贅沢なひとときを楽しみたい。
〔住〕台東区千束1-6-2 NS言間ビル (問〕03-3871-2521


四季のおでん

銀座の隠れ家的な佇まいの「四季のおでん」。店内はカウンターのみ、14席の上品なつくりだ。関西風の薄味の出汁で食材のうまみを引き出し、一皿一品で供される。この日は牡蠣、白子、大根をいただく。柔らかく味が染み込んだ大根にはたっぷりのおかか。牡蛎や白子は、店主の丸山幸二さんが、毎日作る出汁にさっとくぐらせただけのようだが、甘く口の中でとろけるようだ。テーブルの上に置かれている祇園・原了郭の黒七味を一振りすると、また味が引き立つ。〆には、もちやうどんもいい。壁に、グラフィックデザイナーの長友啓典氏、作家の伊集院静氏と先代の店主三嶋宏さん合作の「わてが浪速の おでんだす 喰いなはれ 呑みなはれ 酔うて 千里を駆けなはれ」と書かれた粋な額が。春は笥や蛍烏賊、夏は饅や妓など、四季折々の句の食材をいただく楽しみと、銀座ならではの大人の雰囲気を味わえるおでん屋さんだ。
〔住〕中央区銀座8-6-8 銀座福助ビル1階 〔問〕03-3289-0221


尾張家


JR神田駅南口から徒歩約2分。昭和2年創業で90年を超える老舗である。シベリア出兵した義父が復員後始め、女将の長江操さんは尾張家に嫁いできたお嫁さんで二代目になる。今は次男の寛さんとお店を切り盛りしている。女将さんは、早朝から種を吟味し仕込みをやり、閉店時間まで店に立つ。自らの手で仕込むキャベッ巻は、人形町日山の合挽き肉を使い、値段は長い間変わっていない。鰹節、煮干し、昆布でとった出汁は一切添加物を加えていない尾張家の味だ。1階はカウンター21席、小上りもあり、2階、3階は個室もある。カウンターには予約の席札が置かれ、子約の電話も鳴りっぱなし。「会社や銀行のお偉いさんも来るけど、そういう人は偉ぶらないねえ」と女将さん。懐にも優しく、女将さんの笑顔に癒されるおでん屋さんだ。
〔住〕千代田区鍛冶町1-6-4 〔間〕03-3251-4320




1 2 3

映画は死なず

新着記事

  • 2024.05.17
    町田市立国際版画美術館「幻想のフラヌール―版画家た...

    応募〆切:6月10日(月)

  • 2024.05.14
    阿木燿子作詞、宇崎竜童作曲の名曲を得て、自身初とな...

    ミュージシャンという肩書が似合うようになった

  • 2024.05.14
    全米の映画賞を席巻した話題作『ホールドオーバーズ ...

    応募〆切:6月5日(水)

  • 2024.05.14
    『あぶない刑事』の舘ひろし&柴田恭兵、70歳超コン...

    5月24日(金)公開

  • 2024.05.10
    背中トントン懐かしい ─萩原 朔美   

    第14回 キジュからの現場報告

  • 2024.05.10
    練馬区立美術館「三島喜美代─未来への記憶」展 観賞...

    応募〆切:5月31日(金)

  • 2024.05.10
    <特集>帰ってきた日本文化の粋 ─ 今、時代劇が熱...

    文=米谷紳之介

  • 2024.05.09
    吉田修一原作×大森立嗣監督が『湖の女たち』で再びタ...

    5月17日(金)全国公開

  • 2024.05.09
    東宝映画『ゴジラ』のヒロインに抜擢され、その後俳優...

    東宝から俳優座へ。

  • 2024.05.09
    松田聖子、田原俊彦らアイドル全盛期の昭和56年、西...

    アイドル全盛期のスター

特集 special feature 

わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の  「芸業」

特集 わだばゴッホになる ! 板画家・棟方志功の 「芸業...

棟方志功の誤解 文=榎本了壱

VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いなる遺産

特集 VIVA! CINEMA 愛すべき映画人たちの大いな...

「逝ける映画人を偲んで2021-2022」文=米谷紳之介

放浪の画家「山下 清の世界」を今。

特集 放浪の画家「山下 清の世界」を今。

「放浪の虫」の因って来たるところ 文=大竹昭子

「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

特集 「名匠・小津安二郎」の生誕120年、没後60年に想う

「いい顔」と「いい顔」が醸す小津映画の後味 文=米谷紳之介

人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

特集 人はなぜ「佐伯祐三」に惹かれるのか

わが母とともに、祐三のパリへ  文=太田治子

ユーミン、半世紀の音楽旅

特集 ユーミン、半世紀の音楽旅

いつもユーミンが流れていた 文=有吉玉青

没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、展覧会「萩原朔太郎大全」の旅 

特集 没後80年、「詩人・萩原朔太郎」を吟遊す 全国縦断、...

言葉の素顔とは?「萩原朔太郎大全」の試み。文=萩原朔美

「芸術座」という血統

特集 「芸術座」という血統

シアタークリエへ

喜劇の人 森繁久彌

特集 喜劇の人 森繁久彌

戦後昭和を元気にした<社長シリーズ>と<駅前シリーズ>

映画俳優 三船敏郎

特集 映画俳優 三船敏郎

戦後映画最大のスター〝世界のミフネ〟

「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の流行歌 

昭和歌謡 「昭和歌謡アルバム」~プロマイドから流れくる思い出の...

第一弾 天地真理、安達明、久保浩、美樹克彦、あべ静江

故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・木下惠介のこと

特集 故・大林宣彦が書き遺した、『二十四の瞳』の映画監督・...

「つつましく生きる庶民の情感」を映像にした49作品

仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監督の信念

特集 仲代達矢を映画俳優として確立させた、名匠・小林正樹監...

「人間の條件」「怪談」「切腹」等全22作の根幹とは

挑戦し続ける劇団四季

特集 挑戦し続ける劇団四季

時代を先取りする日本エンタテインメント界のトップランナー

御存知! 東映時代劇

特集 御存知! 東映時代劇

みんなが拍手を送った勧善懲悪劇 

寅さんがいる風景

特集 寅さんがいる風景

やっぱり庶民のヒーローが懐かしい

アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

特集 アート界のレジェンド 横尾忠則の仕事

60年以上にわたる創造の全貌

東京日本橋浜町 明治座

特集 東京日本橋浜町 明治座

江戸薫る 芝居小屋の風情を今に

「花椿」の贈り物

特集 「花椿」の贈り物

リッチにスマートに、そしてモダンに

俳優たちの聖地「帝国劇場」

特集 俳優たちの聖地「帝国劇場」

演劇史に残る数々の名作生んだ百年のロマン 文=山川静夫

秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

特集 秋山庄太郎 魅せられし「役者」の貌

役柄と素顔のはざまで

秋山庄太郎ポートレートの美学

特集 秋山庄太郎ポートレートの美学

美しきをより美しく

久世光彦のテレビ

特集 久世光彦のテレビ

昭和の匂いを愛し、 テレビと遊んだ男

加山雄三80歳、未だ青春

特集 加山雄三80歳、未だ青春

4年前、初めて人生を激白した若大将

昭和は遠くなりにけり

特集 昭和は遠くなりにけり

北島寛の写真で蘇る団塊世代の子どもたち

西城秀樹 青春のアルバム

特集 西城秀樹 青春のアルバム

スタジアムが似合う男とともに過ごした時間

「舟木一夫」という青春

特集 「舟木一夫」という青春

「高校三年生」から 55年目の「大石内蔵助」へ

川喜多長政 &かしこ映画の青春

特集 川喜多長政 &かしこ映画の青春

国際的映画人のたたずまい

ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

特集 ある夫婦の肖像、新藤兼人と乙羽信子

監督と女優の二人三脚の映画人生

中原淳一的なる「美」の深遠

特集 中原淳一的なる「美」の深遠

昭和の少女たちを憧れさせた中原淳一の世界

向田邦子の散歩道

特集 向田邦子の散歩道

「昭和の姉」とすごした風景

information »

ロマンスカーミュージアムが3周年記念イベントを開催!

イベント ロマンスカーミュージアムが3周年記念イベ...

4月10日(水)~5月27日(日)

あの人この人の、生前整理archives

あの人この人の、生前整理archives
読者の声
Social media & sharing icons powered by UltimatelySocial
error: Content is protected !!