父が設計した家を今も守る姉妹たち
大田区の「昭和のくらし博物館」は、戦後の昭和26年に政府の住宅金融公庫を使って建てられた最初期の住宅・小泉家を、建物も家具調度もそのままに保存している。建築設計士の父は敷地もせまく建築資材も不足するなか、自ら図面を引き、夫婦と四人の娘の生活の家を作った。玄関戸を開けたすぐ左は、角の二方の窓からの採光が明るい場所に机椅子を置いた父の書斎で、簡単な接客もそこでできた。
二階の畳敷き四畳半は子供たちの部屋。棚の美空ひばり、松島トモ子、小鳩くるみのブロマイド写真が娘らしい。水色に塗られた木造手製のおもちゃ洋服箪笥とベッドは父が子供たちに作ったもので、ベッドにはこちらは母手製らしい小さなお布団がかかり、寝ている裸のキューピーちゃんは自分だろう。これを宝物と言わずに何と言おう。
一階の茶の間は丸いちゃぶ台にその頃の食事が再現され、茶箪笥の上は黒電話とラジオが鎮座。柱には手紙を入れる状差し。釜や鍋の並ぶせまい台所は工夫され、床下は瓶などの収納だ。廊下には足踏みミシンや針仕事の道具。昔の子供服は母の手作りだった。
親子が勢ぞろいした温かそうな春の縁側、親戚一同が集まった正月の子供たちの嬉しそうな晴れ着、成長して娘らしくなった姉妹たち。あちこちに飾った白黒家族写真の笑顔を見ているうちに涙がわいてきた。ここには幸福がある、ここは幸せを生んだ家だ。
丁寧に案内してくれたのは三女の紀子さん。買い求めた本『昭和のくらし博物館』(河出書房新社)の著者は長女で館長の和子さん。姉妹は今も育った家を守っている。和子さんは私の母と同じ名前だ。私はその一字をいただいて「和彦」と名づけられた。「昭和」にも「和」がある。私はまぎれもない昭和の子だ。