21.12.02 update

芸能生活60周年を前に新作舞台に挑む 永遠の青春スター・舟木一夫

舞台で演じ続ける
娯楽時代劇

 舟木一夫の大劇場での一か月公演は、一部が芝居、二部がコンサートで構成されるが、デビュー以来このスタイルを続けている。デビュー当時の東京の劇場のメインは明治座で、年に一回は明治座の舞台に立ち、伊志井寛、光本幸子といった新派の役者たちが共演者に名を連ね、その当時から、作家の川口松太郎や、初代水谷八重子から、新派入りを盛んに奨められていた。東京の劇場以外でも京都南座、大阪新歌舞伎座、名古屋御園座など、多いときは年3回の一か月公演をこなしたのは、それほど古い話ではない。そして、1997年、『野口雨情ものがたり』で、新橋演舞場での初の座長公演を務めて以来、今回が新橋演舞場通算18回目の公演となる。

 野口雨情や竹久夢二などを演じた作品もあるが、舞台で舟木が大事としたのは、〝娯楽時代劇〟の上演だった。敬愛する長谷川一夫や大川橋蔵の当たり役であり、橋蔵主演のテレビドラマでは舟木が主題歌を歌った『銭形平次』、『沓掛時次郎』『瞼の母』といった長谷川伸原作の股旅物、映画では市川雷蔵が演じた『忠臣蔵異聞 薄桜記』、井伊直弼役に里見浩太朗を迎え舞台初共演となった『花の生涯―長野主膳ひとひらの夢―』などなど。前回2017年の芸能生活55周年では通し狂言『忠臣蔵』で、大石内蔵助を演じた。今回の演目は浅田次郎原作の『壬生義士伝』で、映画では中井貴一、テレビドラマでは渡辺謙が演じた主人公・吉村貫一郎を演じる。

 「舞台の娯楽時代劇で大石内蔵助までやってしまうと、その後に、中途半端な役どころに戻れないんですね。思い切りふり幅の大きな所にいったほうがいいなと感じて、ではどんな役どころがいいのかと考えたとき、今までの流れの演目とは相当違うものをというところに至ったわけです。舞台で『壬生義士伝』をやるには、相当難しいということはわかっていましたが、今一度原作を読み返して自分の気持に確信を得られたので、浅田先生にお願いして、快諾していただいたわけです」

 舟木一夫公演では二部にシアターコンサートがあるため、上演時間に制約があるというのも、『壬生義士伝』のような、主人公の生き方、真意と向き合うような芝居では上演が難しいとされる要因かもしれない。南部藩の下級武士として生まれ、貧苦にあえぐ家族を養うために脱藩して新選組隊士となり、義のため、愛しき者たちのために斬り続ける。北辰一刀流免許皆伝の腕前で、〝新選組で一番強い男〟とも言われた人物である。だが、鳥羽伏見の戦で敗走することになる。

 「こんな世の中だから、明るい芝居のほうがいいんじゃないかという考え方もあると思うんですが、今の時代だからこそ、あえてこういう題材を取り上げて、家族への思い、人と人との関わりといった骨格の太い芝居をお見せできたらと思ったんです」

 この発言は、4年前のインタビューを思い出させた。以前、長野主膳を演じたときに、今回も脚本を担当している齋藤雅文に、大詰めを今の日本に向かってのセリフにしてくれと頼んだのだ。「僕らの商売は何か大事が起きたときに真っ先にいらなくなる自由業の典型なわけで、そんな僕らのような人間がメッセージを発することができるのは、芝居であり、歌でありという部分なんですね」という思いからだった。

 舟木一夫の公演では、キャストの座組が〝舟木組〟と呼べるレギュラーの役者が多い。

 「舞台では娯楽時代劇に思い入れをもってお見せするので、まずは、時代劇の作法や礼儀といった骨法というものを知っている役者さんたちであるというのが50パーセントです、あとの50パーセントは、互いの息遣いです。舞台の芝居では、向き合う役者同士の息遣いがわかるということが、とても大切だと思えるんです。吐く息、吸う息がお互いに通常に呼吸できるくらいの感覚でわかっていないと難しいですね。プロの舞台人として初日までになんとか70パーセントくらいまでには仕上げておいて、あとの30パーセントは、その芝居に対するお客様の息遣いが伝わってきてから、稽古場で絡み合わせたものを予定していた空間にフィットさせていくということですね。お互いの息遣いを知っていれば、芝居を面白くするために日によって息の間を違えるということも、阿吽の息遣いで成立させることができるわけです」

 今回、吉村貫一郎の妻を演じる高橋惠子とは、まったくの初共演である。  
「ここの芝居をこうしましょう、ああしましょうというのが、相談づくというより、なんとなく夫婦という役の気持でわかりあえているような、お互い意思の疎通がとりやすい、僕にとっては気持を楽に持てるとてもありがたいお相手です。それに、高橋さんが、大劇場から小劇場まで、タイプの異なる芝居に出演なさっていて、幅広い役柄を演じていらっしゃるのは知っていますが、ご自分の色というものをしっかりと持っていて、ある役を演じ終えると、いつもご自分の色に立ち戻ることができる役者さんで、真っ新になって次の役に向き合っているように、僕には映ります」と、2人の呼吸の絡みが楽しみになる。

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