今回初来日となるウクライナ・グランド・バレエ団は、ウクライナを本拠地に活動していたハリコフ・オペラ・バレエのソロダンサー、イリナ・カンダジェフスキーとアナトリー・カンダジェフスキー夫婦が立ち上げたバレエ団。パンデミックに続くウクライナの戦争の中、彼らが拠点としていたハリコフ・オペラハウスが爆撃されたことにより、新作『SWAN LAKE ON WATER』の世界各地での上演を目前に、ハリコフ・オペラ・バレエのダンサーたちは国外に脱出し、ちりぢりになりヨーロッパ各地で戦争難民となる。カンダジェフスキー夫妻は憔悴しながらも、ウクライナと近隣諸国の優秀な若手ダンサーを集め、新しいバレエ団を立ち上げることこそが彼らの仲間、キャリア、そして新作『SWAN LAKE ON WATER』を救う方法だとの考えにより、このバレエ団を創設した。
『白鳥の湖』は、『くるみ割り人形』『眠れる森の美女』とともに、チャイコフスキーの三大バレエの一つに数えられ、まさに〝バレエの中のバレエ〟とも言える作品であろう。物語はドイツを舞台に、王子ジークフリートは母親から舞踏会で花嫁を選ぶよう命じられ、憂鬱な気分の中向かった湖で、悪魔の呪いで白鳥に姿を変えられた娘オデットと出会い、惹かれ合う。翌日開かれた舞踏会に、オデットによく似た娘オディールを連れて、客に変装した悪魔ロットバルトが現れる。オディールをオデットと思い込んだ王子は、その場で結婚の誓いを立ててしまう……。
バレエ『白鳥の湖』の大きな魅力は、一人のプリマ・バレリーナによる白鳥オデットと黒鳥オディールの二役の演じ分けや、一糸乱れぬ群舞だと言われている。今回の公演では、これまでに観たことがない新美学とも言える『白鳥の湖』が誕生した。
演出に実際の「水」を取り入れ、映像や照明との融合で新たなクリエイティブ美学を結実させたのだ。CGプロジェクションで再現された華やかな宮殿や美しい湖畔。LEDライトの演出により、幻想的な世界観が鮮やかに浮かび上がる。そしてウォータージェットを用いた宮殿の噴水、二幕での水を張ったステージでのバレエダンサーによる、白鳥の羽ばたきを彷彿とさせるパシャパシャと音を立てながらの群舞。そして四幕の後半クライマックスの10分間は圧巻である。12トンの水を雨のように降らす迫力の情景が演出される中、バレエダンサーたちが集結し、水しぶきをたてながら華麗なバレエで魅せる。
『白鳥の湖』は、あの有名な旋律を聴くだけでも心が震えるが、バレエも何度みても、観るたびに新たな感動を覚える。そして今回の舞台は、〝ウォーター・スペクタクル・バレエ〟とも呼べる、エンタテインメント性の高い作品と言えるだろう。公演回数は少ないがぜひとも体験しておきたい公演である。バレエを観たことがない人にとっても、楽しめるはずである。
「SWAN LAKE ON WATER」
~ついに、ほんとうの水を得た『白鳥の湖』
バレエ団:ウクライナ・グランド・バレエ
指揮:渡邊一正
演奏:東京フィルハーモニー交響楽団
振付・演出:ヨハン・ヌス
音楽:ピョートル・チャイコフスキー
〔公演日程〕8月10日(木)14:00
8月11日(金・祝)12:00、17:00
8月12日(土)12:00、17:00
8月13日(日)12:00
〔会場〕東京国際フォーラム・ホールA(有楽町駅1分、東京駅5分)