24.03.04 update

なぜ世田谷区はアーティストの街になったか。その3「世田谷美術館」で開催中の「美術家たちの沿線物語 小田急線篇」で腑に落ちた!

■ 梅が丘駅から世田谷代田駅あたり

 梅ケ丘駅は、小田原線の開通から7年後の1934年(昭和9)に設置された駅。この駅は、山手線の外側に計画された〈第2山手線〉ともいわれる環状線、東京山手急行電鉄との接続駅にもなる予定だった。小田急の社長でもある利光鶴松がこの電鉄の社長を務め、大井町駅を起点に武蔵小山、梅ケ丘、明大前とつづき、中野、江古田、板橋、田端、北千住、大島、砂町を通って洲崎 (江東区東陽町1丁目)へとつなげる構想だったが、日中戦争など時局の悪化で実現せず、幻の路線となったという。

 梅ケ丘駅が開業した年、結婚を機にこの町に新居を構えたのが洋画家・小堀四郎 (1902-1998)と小堀杏奴 (1909-1998)。杏奴は森鴎外の次女で、後に『晩年の父』で作家としてデビュー。四郎は東京美術学校の恩師・藤島武二の教えを心に刻み、団体に所属せず、作品を売らず、孤高の創作活動をつづけた。杏奴は原稿の執筆で夫を支えたのである。

 梅ケ丘駅近くにはまた、”日本のシャルダン“の異名をとり、静物画を中心に独自の写実表現を追求した洋画家の後藤禎二 (1903-1970)が住んだ。息子の後藤九 (1932-2017)は、商業写真やカメラ雑誌の仕事の一方で、父・禎二のようなひたむきさで、イタリア・ジェンツァーノの花祭りを長年写したほか、世田谷区内の日々の風景を撮りつづけた。

 つづく世田谷代田駅は開通当初、世田ケ谷中原駅として開業。代田は作曲家の古関裕而が長く住んだ地でもあり、この付近には戦後間もない1946(昭和21)年から7年ほど、若き日の武満徹 (1930-1996)が住でいた。瀧口修造との出会いにより、美術家、写真家、作曲家、演奏家などからなるインタージャンルの創作集団「実験工房」のメンバーとして作曲活動をはじめた時期にあたる。また、この近くには、詩人・萩原朔太郎が1933年(昭和8)に家を建 て、終の住処とした。朔太郎の孫にあたる萩原朔美(1946-)は、寺山修司主宰の劇団・天井棧敷を退団したのち、自宅を“ウメスタ”と称し、榎本了壱(1947-)、安藤紘平(1944-)、山崎博(1946-2017)、かわなかのぶひろ(1946-)ら仲間たちと個人映画の制作を始めている。萩原の定点観測の手法はこの時点から始まったようだ。

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