24.03.08 update

スティーブ・ジョブズも愛した木版画家・川瀬巴水の世界にひたる、「八王子市夢美術館」

 季節や天候、時の移ろいを豊かに表現し、「旅情詩人」とも呼ばれた川瀬巴水(1883~1957年)の初期から晩年までの代表的な作品や、まとめて観る機会の少ない連作(シリーズ)も含め150点あまりが展示される「川瀬巴水 旅と郷愁の風景」が、八王子市夢美術館で開催される。
 10代半ばから画家をめざし、25歳にして絵の道に踏み出した巴水は、日本画家の鏑木清方に弟子入りをする。同門の伊東深水の連作木版画『近江八景』(1918年)に感銘を受け、さらに「新板(版)画」を進めていた版元の渡邊庄三郎との出会いから、33歳で版画家・巴水として歩み始めたのだった。

 1923年(大正12)の関東大震災で大切にしていた写生帖などを失う不幸に見舞われた巴水だったが、庄三郎に励まされ長い旅に出て制作を続けることに。巴水の作品は震災前よりも明るく鮮やかな色彩になり、細部まで写実的で精密な筆致が特徴の《芝増上寺》東京二十景(1925年)、《馬込の月》東京二十景(1930年)などの傑作が生まれたのである。
 その後、画家仲間から朝鮮半島への旅に誘われたことをきっかけに、異国の風景や風俗を初めて目にし、『朝鮮八景』(1939年8月)、『続朝鮮風景』(1940年)などの連作が生まれた。
 しかし世界は戦争の時代となり版画も衰退していったが、第二次世界大戦が終わると海外から訪れる外国人に版画が人気となり、巴水も円熟期を迎える。

《西伊豆木負》 1937(昭和12)年6月 渡邊木版美術画舗蔵

 1952年には、文部省による文化財保存の一環で木版画の技術を記録することが決められ、木版画家のひとりとして、巴水が選ばれるという栄誉を授かる。胃がんに侵されながら《平泉金色堂》(1957年) の筆を執った巴水だが完成させることなく74歳で亡くなり、仕上げたのは、その才能を引き出し、版元として支え続けた渡邊庄三郎だった。
 日本的な美しい風景を、叙情豊かに表現した作風から、「旅情詩人」と呼ばれ、〝昭和の広重〟などとも謳われる巴水は、海外でも人気が高く、アップルコンピューターの共同創業者、スティーブ・ジョブズにも愛された。本展では、「スティーブ・ジョブズと巴水」のコーナーも設けられている。

《平泉金色堂》 1957(昭和32)年 渡邊木版美術画舗蔵

「川瀬巴水 旅と郷愁の風景」は、八王子市夢美術館にて、2024年4月5日(金)〜6月2日(日)開催。
【八王子市夢美術館|公式サイト】https://www.yumebi.com

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