22.03.25 update

ゴジラ、ラドン、モスラ…特撮の神様・円谷英二の陰に「特撮美術監督・井上泰幸」あり

 たかが怪獣映画、などと口にする勿れ。日本の映画史にその名を刻んだ特撮映画監督といえば円谷英二(1901~1970)。その円谷の陰となって、ゴジラ(1954)、ゴジラの逆襲(1955)、空の大怪獣ラドン(1956)に始まり、あらゆる日本の特撮(特殊撮影の略称)美術・技術の領域を支えたのは、井上泰幸(1922~2012)の存在があった。今年、生誕100年、没後10年、庵野秀明館長の特撮博物館の開館10周年という節目に、「生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展」として生涯にわたる「全仕事」が展示されている。

【写真】会場には、1994年当時のアルファ企画における井上泰幸のパネルが掲げられている

 本展では、井上が遺したスケッチ、デザイン画、絵コンテをはじめ、記録写真や資料、撮影で使われたミニチュア、プロップ、当時を再現した大型撮影セットなどが展示されており、いかに精密・精緻な準備があって本物に迫っていたか、あらためて特撮への献身的な取り組みに感嘆することだろう。

【写真】井上が手がけた数々の作品の台本も展示されている

 現代は、CG(コンピュータ・グラフィックス)を駆使したバーチャル映像が主流となっているが、井上の時代は徹底したロケハンを経た後のスケッチ画から精巧なミニチュアが作られ、細部まで本物を俯瞰して表現の独創性を探っていたことが伝わってくる。まさに、「実装の人」井上作品を体感できる展示品として、『空の大怪獣ラドン』の「西鉄福岡駅周辺ミニチュアセット」(旧岩田屋デパート)がアトリウム空間に再現されている。

【写真】西鉄福岡駅周辺ミニチュアセット

 本展は井上の姪にあたる遺族代表の東郷登代美氏が、亡くなる直前に5,000点に及ぶデッサンや資料などを預かったことから、広報活動に奔走して実現したもの。東郷氏は、「伯父の業績を亡くなってからあらためて知り、この貴重な遺作品を広く世に出して、次世代への創造的なインスピレーションを喚起することができれば…」と語っている。井上の人生と仕事を通じて、映画ファンならずとも、作り手としてのこだわりと不屈の精神を感受できるに違いない。


展覧会名:生誕100年 特撮美術監督 井上泰幸展

東京都現代美術館/3月19日(土)~6月19日(日)
開館時間:10:00―18:00(入場30分前)
休館日:月曜日
観覧料:一般1,700円/大学生・専門学校生・65歳以上1,200円/中高生600円/小学生以下無料

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