23.06.21 update

第2回 おニャン子、とんねるず、そして森田芳光監督のこと

1981年にフジテレビジョンに入社後、編成局映画部に配属され「ゴールデン洋画劇場」を担当することになった河井真也さん。そこから河井さんの映画人生が始まった。
『南極物語』での製作デスクを皮切りに、『私をスキーに連れてって』『Love Letter』『スワロウテイル』『リング』『らせん』『愛のむきだし』など多くの作品にプロデューサーとして携わり、劇場「シネスイッチ」を立ち上げ、『ニュー・シネマ・パラダイス』という大ヒット作品も誕生させた。
テレビ局社員として映画と格闘し、数々の〝夢〟と〝奇跡〟の瞬間も体験した河井さん。
この、連載は映画と人生を共にしたテレビ局社員の汗と涙、愛と夢が詰まった感動の一大青春巨編である。


[第2回] 楽しくなければ映画じゃない

~『チ・ン・ピ・ラ』『ビルマの竪琴』『子猫物語』『そろばんずく』のことなど~

 

 ビギナーズラックとも言えるまさかの『南極物語』の大ヒットに、テレビ局とともに驚いたのは映画配給会社だった。
 大映、日活等の破綻で製作リスクの問題がクローズアップされ、大手配給会社は映画館を中心に配給網の確保が大きな役割となっていた。因みにアメリカでは独禁法のせいで、原則として配給会社は映画館を所有できない。
 企画がテレビ局。製作出資、制作もテレビ局中心。配給会社は自社中心の劇場を確保し、配給手数料で生きて行く・・・最もリスクが少ないと言える。仮に1000円の入場料とすれば500円は映画館の収入、残りの30%が配給手数料とすると150円。映画館+配給会社で65%の収入が得られ出資はゼロという次第。
 しかも大きな経費である宣伝費はテレビ局の自社スポットで、大きく軽減出来る。地上波が勢いに乗った時代だからこそだか、テレビスポット料金が値上がりし、大きな作品なら1億円以上のスポット宣伝費がかかる時代になっていた。
 フジテレビには様々なオファーが殺到した。ただ、鹿内春雄氏(当時社長)ら幹部は「映画は金儲けだけではない」と。「人に乗る」とでも言うように『南極物語』のヒットの翌年は『瀬戸内少年野球団』(篠田正浩監督:1984)に、ほぼ100%出資した。ただ製作クレジットは【YOUの会】でフジテレビの名前はない。YOU の会とは原作の阿久悠さんの【悠】のもじりである。自分たちも宣伝等で走り回ったが、フジテレビ関係者クレジットはない。プロデュースは『南極物語』で御一緒した原正人氏だ。地味な内容だったが映画はヒットした。この映画が最後の出演作となった、1つ年上の夏目雅子さんの27歳での死はショックだった。そばに居て、本当に映画女優を感じた人だった。


 一方で、新宿東映パラスで観た『竜二』(川島透監督:1983)に感動した僕が、同じ金子正次脚本の、新しい映画の製作を熱望して受け入れられたこともあった。僕が関わった映画の中で最も撮影現場に長く居た作品だ。ただ、長い間【母と子のフジテレビ】がキャッチフレーズだった会社が『チンピラ』というヤクザ映画のタイトルはまずい! ということになった。色々議論があり結果『チ・ン・ピ・ラ』(1984)で決着した。苦し紛れの案かと当時は感じていたが、今はとても良いタイトルで素敵な映画になったと思う。ちょっと残念だったのが、大好きだったサザンオールスターズに思い切って主題歌をオファーしたが、あっさり断られた。忌野清志郎さんにも会って直接、断られた。その18年後、サザンの事務所アミューズに僕は行くことになるのだが。それは、また別の話。

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映画は死なず

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