「まさか~!」「嘘だろ~!」「ホンマかいな」「あり得ない!」…と、虚実を衝かれ煙に巻かれながら、ハタと気が付けばこれはコメディなのだった。古今東西、日本人が愛し涙に暮れてきた典型的な〝日本の時代劇〟のモチーフである「忠臣蔵」をオチョクリ嗤うなど許されていいものか、と思いつつ笑ってしまう、時代劇エンターテイメントが2月9日(金)公開される。
改めて『忠臣蔵』の本筋をなぞっても意味がない。いきなり、吉良家末弟の怠け坊主、吉良孝証(ムロツヨシ)の登場からこの物語が始まる。江戸幕府の高家旗本、吉良家の当主・吉良上野介(ムロツヨシ)に金の無心をねだるがけんもほろろ。もとより上野介に追い出された孝証は人情の欠片もない上野介とは折り合いが悪いのも頷ける。
さて、殿中では周囲からも忌み嫌われる上野介のパワハラぶりに業を煮やし、遂に赤穂の若きプリンス浅野内匠頭(尾上右近)は松の廊下で刃傷におよぶ。憎っくき吉良を仇討にするか、忌々しいが城の明け渡しを座して待つか、喧々諤々をヨソに、赤穂藩筆頭家老の大石内蔵助(永山瑛太)の腹の定まらない優柔不断ぶり。まぁ、ここまでは良しとして、実は吉良上野介は赤穂浪士の討ち入り前に病没していたのだから、話はトンデモナイ展開になる。上野介に虐められながらも側近として仕える家臣・斎藤宮内(林 遣都)は当主不在の吉良家存亡をかけて顔が瓜二つの孝証を身代わりにするという、まったく奇想天外な発案!
赤穂城断絶はもとより幕府に恥をかかせたと怒り心頭の将軍・徳川綱吉(北村一輝)は、犬を愛するばかりに「眉が漫画みたいになっちゃってんじゃん」みたいに登場し、将軍の側用人・柳沢吉保(柄本明)は幕府のフィクサーとして吉良家の取り潰しも目論む。はてさて吉良家の厄介者がどんな大芝居(?)を見せるか。以下はネタばれ回避のため、細工は流流仕上げを御覧じろ。
本作は、映画『超高速!参勤交代』や『引っ越し大名!』といった大ヒットコメディ時代劇を生み出した土橋章宏の原作、脚本によって再び三度放たれた痛快時代劇エンターテイメントである。メガホンを取ったのはドラマ「全裸監督」(19)や映画『総理の夫』(21)の河合勇人。1969年生まれ、50代半ばの二人がタッグを組んだ唯一無二のまさかの忠臣蔵は、固定概念を捨ててみると現代の人間社会の歪を浮き上がらせて、妙な納得感に浸れるヒューマン・ストーリーでもあった。
『身代わり忠臣蔵』
2024年2月9日(金)ロードショー
制作プロダクション:東映京都撮影所
製作幹事・配給:東映
(C)2024「身代わり忠臣蔵」製作委員
映画公式HP:https://migawari-movie.jp