久しぶりに痛快なアメリカ映画がやって来た。
第92回アカデミー賞作品賞ほかいくつもの部門賞にノミネートされ、脚色賞を受賞した『ジョジョ・ラビット』のタイカ・ワイティティ監督の新作『ネクスト・ゴール・ウィンズ』だ。何しろ『ジョジョ・ラビット』で、あのヒトラーをブラック・ユーモア溢れる笑いと風刺で描き世界を感動の涙に包んだ同監督が、南太平洋ののどかな島国・米領サモアのサッカー代表チームの実話を知るや否や映画化を閃いたのだから、ただ事ではない。
いきなり2001年のサッカーW杯オセアニア予選、米領サモアチーム対オーストラリア代表の実写フィルムから話が進む。無残にも<0―31>になるまで試合は続き、記録的な惨敗を映し出す。島民たちも自嘲気味で「世界最弱のチーム」という汚名を祓う気力もない。物語はここから始まるが、これは単なる〝スポ根〟ドラマではない。
そんな不甲斐なきチームの立て直しのために米国サッカー協会から、これも訳ありの指導者・トーマス・ロンゲン(マイケル・ファスベンダー)が派遣される。だが、監督&コーチとして十分な実力があったにも関わらず、ロンゲンには感情のコントロールが利かなくなるという欠陥があった。協会からの通達は、よりによって米領サモアチームの指導がうまくいかなくなり再び三度怒り狂って暴れれば、サッカー界から追放寸前という立場だ。
間もなく2014年W杯予選が始まる。のどかな島国に暮らす選手たちにも、「せめて1ゴールを決めて汚名を晴らしたい」との願いはあるものの、ロンゲンはあまりにも低レベルのプレーぶりやカルチャーの違いに苛立ちは隠せない。厳しい勝負の世界を生き抜いてきた孤独なロンゲンの心の傷に気づかない選手たちとぶつかり合いながら、やがて彼らのひたむきさや優しさに触れて心温まる交流も描かれてゆく。そして<第3の性>のジャイヤ選手がキャプテンとなって初めて公式戦に出場したというのも実話だ。2014年FIFAワールドカップ・ブラジル大会予選の第1戦は、同じ南太平洋に浮かぶ群島トンガ。ロンゲン率いる米領サモアの行方は、果たして…?!
本作は、挫折を味わったものたちが、それぞれの人生と幸せに向かい合い、やがて分かり合ってゆく温かい心の交流を、胸に響く言葉とともにユーモラスかつ感動的に描き出した。太平洋諸島の人々の決して豊かとはいえないが、おおらかでユーモアあふれる生き方を描いてくれたのも魅力だ。〝負けを知る〟すべての人々にエールを贈る、感動のヒューマンドラマが遠い南半球を舞台に創り出された。
『ネクスト・ゴール・ウィンズ』
2024年2月23日(金・祝) 全国ロードショー
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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