アカデミー賞🄬の前哨戦、第81回ゴールデン・グローブ賞で、脚本賞と非英語作品賞の2部門を受賞し、第76回カンヌ国際映画祭で最高賞パルムドールも受賞している『落下の解剖学』(英題:Anatomy of Fall)が、2月23日(金・祝)より、TOHOシネマズ シャンテ他全国順次ロードショーとなる。この作品をどうしても作りたかったという監督・ジュスティーヌ・トリエが描きたかったのは、ある夫婦の関係が崩壊していく様だったという。
サンドラ(ザンドラ・ヒュラー)はドイツ人でベストセラー作家だ。フランス人の夫・サミュエル(サミュエル・タイス)は息子のスクーリングをしながら執筆活動をしている教師。息子のダニエル(ミロ・マシャド・グラネール)は、交通事故が原因で視覚障がいがある。ダニエルが愛犬・スヌープと散歩から戻ると、雪の中で父親が血を流し横たわっており、既に息がなかった。検視の結果、死因は事故か殴打による外傷だと報告される。状況から妻のサンドラが容疑者に。サンドラは、知人の弁護士、ヴァンサン(スワン・アルロー)に弁護を依頼する。舞台は裁判所へ。サミュエルが亡くなった日に取材に来ていた女性記者や夫のかかりつけの精神科医が証人になり、秘密や嘘が暴かれていく。かわいそうなのは息子のダニエルだ。長期にわたる尋問が展開され両親の波乱に満ちた関係を知り苦悩するが、ダニエルは「もう一度証言したい」と申し出る──。
ジュスティーヌ・トリエ監督が、主人公サンドラ役は、ザンドラ・ヒュラーを念頭に脚本を書いたというほど、彼女は見事に期待に応えその演技は見ものだ。特に母国語でないフランスの法廷に挑む姿や夫との口論は凄まじい迫力で圧倒される。法廷のシーンは、現場にいるような錯覚に陥るほど、緊迫しスリリングだ。検事や弁護士の巧みな口述により、真実の在りかがわからなくなって、審理は混沌を極めていく。
息子役のミロ・マシャド・グラネールにも注目したい。視覚障がいのある子役を探したがなかなか見つからず、障がいがない子まで対象を広げ探し出したのが、ミロだ。グレーがかかったブルーの目から流れる涙が印象的だ。さらに、愛犬スヌープの存在だ。重要な役どころを演じており、パルムドック賞も受賞している。
母国語の違いやそれぞれの理想、ベストセラー作家と作家を目指す教師といった生業(なりわい)の違い、そこに愛息の事故が重なり夫婦は崩壊してゆく。しかし、同じ言語を話しながら、すれ違い、嘘を暴き合い、誤解を生み、破綻してゆく夫婦もある。人里離れた雪景色の中に佇む一家に起こった事件という設定もサスペンス色を増しており、事故か、自殺か、殺人か、裁判の行方とその後の家族の再生など最後まで目が離せない。
『落下の解剖学』
2024年2月23日(金・祝) TOHOシネマズ シャンテ他全国順次ロードショー
配給:ギャガ
©2023 L.F.P.–Les Films Pelléas/ Les Films de Pierre / France 2 Cinéma / Auvergne‐Rhône‐Alpes Cinéma公式
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