俳優・吉沢亮がコーダという生い立ちの青年を演じる『ぼくが生きてる、ふたつの世界』が9月20日(金)より全国順次公開となる。
映画『キングダム』シリーズや、NHK大河ドラマ「青天を衝け」(21)など、吉沢亮は英雄の役が様になるし見慣れているが、本作では、パチンコ店の店員や、役者のオーディションを受けても見向きもされない、オーラを消した役柄で新境地を見せている。さらに、コーダという役柄、手話が必要となるが、主人公・五十嵐大の生まれ育った宮城県の方言のある手話と、東京に出てから使う手話の違いも自然に使い分けるなど難しい役柄を演じている。
物語の舞台は宮城県の小さな港町。五十嵐家に男の子が誕生し〝大〟と名づけられる。父・陽介(今井彰人)と母・明子(忍足亜希子)は、耳がきこえない。祖父の康雄(でんでん)は、かつて〝蛇の目のヤス〟と呼ばれた元ヤクザ、それに祖母・広子(烏丸せつこ)が同居している。家族に愛されて育った幼い頃の大は、背後に迫る車から母を守り、手話で母の通訳をすることも日常のことだった。けれども小学校に入ると、耳がきこえない母を恥ずかしく思うようになり、反抗期になると母の明るささえも疎ましくなってしまう。
高校受験で、志望校に落ちてしまった大は、「全部お母さんのせいだよ! 障がい者の家に生まれてこんな苦労をして!」とやり場のない怒りを母にぶつける。高校を卒業してからも、無為徒食の毎日で、周囲を見返すため、役者になろうかと東京の芸能事務所を受けても全滅し、パチンコで憂さ晴らしをする日々が続く。大は、〝耳のきこえない親を持ったかわいそうな子〟という特別な目で見られることから逃げるように東京に旅立つ。東京ではパチンコ店でバイトをしながら半年が過ぎる。耳のきこえないパチンコ店の客の通訳を手話でしたことから、ろう者の友人を紹介され、彼女から「コーダ」という言葉を聞き、自分とおなじような境遇の人が2万数千人もいることを知るのだった。
母の明子からは時折、食料品の入った宅急便が届く。そこにはいつも、幸せを祈る手紙と五千円札が添えられていた……。
原作は、五十嵐大による自伝的エッセイ『ろうの両親から生まれたぼくが聴こえる世界と聴こえない世界を行き来して考えた30のこと』(幻冬舎刊)を、呉美保監督が9年ぶりにメガフォンを取った。吉沢亮の観る人に媚びない、役にも媚びない芝居が以前から好きだったという呉監督と、いつか呉監督の作品に出演したいという吉沢の願いが叶った。
大の両親を演じた忍足(おしだり)亜希子、今井彰人をはじめ、大が東京で親しくなるろう者の登場人物は実際に障がいを持つ俳優が演じている。手話で懸命に対話しひたむきに生きている姿も胸が熱くなるのだった。
この物語は、耳のきこえない母親と、きこえる息子の親子の物語である。それは特別なことではなく、反抗期の頃、親を疎ましく思ったり、思いやりに素直になれなかったり、振り返ると大と同じような経験をしている健常者も多いのではないだろうか。それゆえ、どこか懐かしく心に響いてくる作品である。
『ぼくが生きてる、ふたつの世界』
9月20日(金)新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開
配給:ギャガ
©五十嵐大/幻冬舎 ©2024「ぼくが生きてる、ふたつの世界」製作委員会
公式HP:https://gaga.ne.jp/FutatsunoSekai/